「ストーリーを語れ」は本当に正しいのか?
written by 中村 弘樹
ブランディングや広報の場で、「ストーリーを語ろう」「ストーリーで売ろう」という言葉は、定番の言い回しです。僕自身もよく使ってきた言葉でした。
でも、立ち止まって考えてみると、お客さまは本当にストーリーを読んで買っているのか。少し違和感が残るんですよね。今日はそのあたりを整理してみます。
本当に「ストーリーで買っている」のか
実際の購買行動を観察してみると、お客さまの多くは、ストーリーを丁寧に調べて買っているわけではありません。
「なんとなく良さそう」「雰囲気が好き」「誰かが薦めていた」。だいたい、こうした感覚的な入り口から購入が決まります。ストーリーは、購入の引き金として機能するというより、別のところで効いているように思えます。
順番は「ストーリー → 購入」ではなく「購入 → ストーリー」
僕の現場感覚では、ストーリーは購入の前ではなく、購入のあとに効いてきます。
「いい商品だな」と思って買ったあと、背景にあるつくり手の物語を知ると、「やっぱりここで買ってよかった」と納得が深まる。リピートや紹介につながるのは、この「事後の物語」のほうです。ストーリーはトリガーではなく、補強材として配置するのが、自然な置き方だと思います。
つくり手と買い手で、視点がずれている
ここで気をつけたいのが、つくり手の語りたいストーリーと、買い手が知りたいストーリーは、ずれていることが多いという事実です。
つくり手は、努力、苦労、こだわり、長い試行錯誤を伝えたい。でも買い手は、「これを買うと、自分の生活はどうなるか」を見ています。視点を一段、お客さま側に寄せないと、せっかくのストーリーも届かないままになってしまいます。
ストーリーは、説明ではなく「滲ませる」もの
ストーリーは、別ページを設けて長文で語るというより、サイト全体・空間全体・接客全体に「滲ませる」ものだと感じています。
写真の温度感、言葉の選び方、お店のしつらえ、スタッフの所作。これらにストーリーが流れているサイトは、特別に「私たちの物語」と書かなくても、訪れた人がじんわり感じ取れます。
感じ方を先に設計する
実装で大事にしているのは、ストーリーの量を増やすことではなく、「どう感じてほしいか」を先に決めることです。
感じ方が設計できていれば、ストーリーは断片でも十分機能します。「ストーリーを語れ」より一歩手前に、「どう感じてもらいたいか」を置いておく。語る順番が整うだけで、伝わり方は静かに変わっていきます。