広報・採用

担当者に聞く3つの質問

広報のご担当者から、こういう相談をよく受けます。事例を紹介するページを作りたいのですが、書くことが出てこないんです、と。

実際に社内を見せていただくと、書くことは山ほどあります。ただ、それが誰の口からも出てきません。担当した本人の中にしまわれたまま、外に出る機会がないだけです。

事例のページが名前で埋まる理由

どこの会社にも事例のページがあります。施工事例、解決事例、導入事例、制作実績。呼び方は違っても中身は同じで、たいてい作ったものの名前で埋まっています。

書いているのは、たいてい広報のご担当者です。その仕事の現場にはいなかった方が、あとから資料と写真を渡されて書きます。手元にあるのが名前と写真だけなら、名前と写真しか書けません。

ここを「文章力の問題」として扱うと、たいてい解決しません。足りていないのは文章力ではなく、手元の素材のほうだからです。

読む人が探しているもの

事例を読みに来る人が探しているのは、この会社が上手かどうかではありません。自分と同じ状況の人が、そのあとどうなったかです。

だから、必要な素材は4つに絞れます。頼まれた時の状況。いちばん迷ったところ。やったこと。そのあとどうなったか。

このうち「やったこと」だけが、資料から取れます。残りの3つは、担当した人の記憶の中にしかありません。

3つ聞けば5分で出てくる

そこで、担当した人に3つ聞きます。

依頼を受けたとき、相手はどんな言葉を使っていたか。進めるなかでいちばん判断に迷ったのはどこか。終わってから何か言われたか。

これだけです。5分で終わります。そして、聞いてみると、答えた本人がいちばん長く話します。話す機会がなかっただけで、記憶はきちんと残っているからです。

広報のご担当者が「書くことがない」と言うとき、無いのは書くことではありません。聞く場のほうだった、ということが多いように思います。

いちばん価値があるのは迷った話

3つの中でいちばん抜けやすいのが、2つ目の「迷ったところ」です。そして、書いたときにいちばん差が出るのもここになります。

仕事の中身が出るのは、決めた結果よりも、決める前の分かれ道のほうだからです。

たとえば、トップページの一行目に価格の安さを出すかどうかで社内の意見が割れる。出せば問い合わせは増えるけれど、来る人が変わってしまう。話し合ったすえに、出さないほうを選ぶ。

この一行があると、その組織が何を基準に決める組織なのかが伝わります。仕上がりだけを見せても、そこは伝わりません。作ったものは真似できますが、迷い方は真似できないからです。

聞かれることが人を育てる

この3つの質問には、記事の素材を集める以外の効果があると思っています。

自分のした仕事について、順を追って聞かれる機会は、思っているより少ないのではないでしょうか。うまくいったかどうかではなく、どこで迷ってどう決めたのかを聞かれる。そのときにはじめて、自分が何を基準に判断していたのかが言葉になります。

言葉になったものは、次の案件で使えますし、後から入った人にも渡せます。個人の勘のままだと、その人が抜けたところで消えてしまう。それが、組織に残る形に変わります。

広報の取材を、記事のための取材としてだけ扱うのはもったいないと思っています。社内に散らばっている判断の基準を集めて、言葉にして、共有できる形にする作業でもあるからです。

まず3件だけ聞いてみる

やり方も決めておきます。まず、直近で終わった3件を選びます。うまくいった順ではなく、終わった順で構いません。どれを選ぶかで悩みはじめると、そこで止まってしまうので。

その3件について、担当した人に3つ聞いて、4つを書きます。1件15分ほど、3件で45分です。

そのうえで、事例ページの一行目だけを入れ替えます。作ったものの名前があった場所に、頼まれた時の状況を置く。写真の配置も体裁もそのままで構いません。残りの何十件かは、手をつけなくて大丈夫です。

3件やってみると、担当者から話を引き出す聞き方も見えてきます。書くことがない組織には、まだ出会ったことがありません。たいていは、社内で聞く時間を取っていないだけだと思っています。

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