広報・採用

広報担当に本や研修を渡す前に、お金をかけずにできること

広報やマーケティングの担当を任せることになった。そこで何をするかというと、たいていは本を渡すか、講座に申し込むか、外部研修に出すかでしょう。もちろんそれも必要なのですが、その前に、費用をかけずにできることがあります。今日は、担当者を育てるときの入口の話を書きます。

教材は全員がすでに持っている

マーケティングは何から学べばいいですか、と聞かれることがあります。本ですか、講座ですか、資格ですか、と。

ここで一度、前提を確認しておきたいのです。

売る側の経験がない人はいます。ですが、買う側の経験がない人はいません。それも何十年もやっている。つまり、教材のほうは、担当者本人がすでに大量に持っているということです。

ただ、たいていの場合それを見ていません。学びは外から仕入れるもの、という前提でいるからです。

ですから、育成の最初の一手として僕がおすすめしたいのは、講座に出すことより先に、「買う側の自分」を観察する習慣をつくることです。

一つだけ言葉にしてもらう

やることは単純です。

コンビニでもスーパーでもいいので、飲み物の棚の前に立ったときに、なんでそれを選んだのかを、一回だけ言葉にしてもらう。

似たようなものが二十本くらい並んでいて、値段も中身もそんなに変わらない。それでも人は、ちゃんと一本選んでレジに持っていきます。

最初は「なんとなく」しか出てきません。それでいいのです。その「なんとなく」の中身を、もう一段だけ考えてもらう。パッケージの色が好きだったのか。前に飲んだことがあって味を知っていたからか。いちばん手前にあって取りやすかったからか。テレビで見たことがあったからか。

どれも立派な理由です。そして、どれも誰かが仕掛けていることです。置く場所も、色も、名前も、露出も、全部誰かが決めています。

自分がその仕掛けに乗った瞬間を、自分で観察する。

これができるようになってから本を読むと、入り方がまったく変わります。逆に、何も溜まっていない状態で読むと、正しいことが書いてあっても通り過ぎてしまう。研修に出しても身につかない、という相談をよくいただきます。原因の一部は、たぶんここです。

売る側に回った瞬間に忘れます

もう一つ、組織で必ず起きることを書いておきます。

ご飯を食べに行くとき、検索して、写真を見て、口コミを見て、決めますよね。そのときの決め手は、料理の写真だったでしょうか。

けっこうな確率で、違うところで決まっていないでしょうか。駐車場があるかどうか。子どもを連れて行けるかどうか。夜遅くまでやっているかどうか。

一方でお店の側は、たいてい料理の写真をいちばん大きく出しています。いちばん自信があるところなので、当然です。

でも、選ぶ側が最後に見ているのは、駐車場だったりする。

選ばれる理由は、売る側が推したいところとずれていることが多い。そして、これは自分が買う側にいるときは、はっきり分かっています。分かるどころか、自分でやっている。なのに、売る側に回った瞬間に忘れます。

会社の資料や採用サイトを作るときも同じです。自社でいちばん力を入れてきたところを、いちばん大きく出したくなる。それは自然なことですが、選ぶ側が知りたいのはそこではないかもしれません。

採用でも使う人と決める人は違う

もう一つ、実務でいちばん外しやすいところがあります。

使う人と、決める人が違うことがある、という話です。

子どものおもちゃがそうですよね。使うのは子どもですが、お金を払うのは親です。子どもがどれだけ欲しがっても、親が止めれば買われません。逆に、親が「知育に良さそうだ」と思えば、子どもがそこまで欲しがっていなくても買われます。

贈り物も同じです。使うのは相手ですが、選ぶのは自分。だからギフト売り場の言葉は、贈る人に向けて書かれています。「喜ばれます」「失礼になりません」。使う人にではなく、選ぶ人に向いている。

これは採用でもそのまま起きます。実際に働くのは応募者本人ですが、新卒であればご家族が、転職であればパートナーが、意思決定に関わることが少なくありません。ところが採用サイトは、本人に向けた言葉だけで作られていることが多い。

BtoBの営業資料も同じ構図です。現場で使う方と、稟議を通す方は違います。現場向けの言葉だけで作ると、決める側には何も残りません。

担当者にこの視点が一つ入るだけで、作るものが変わります。

比べる相手を指定してあげる

観察の次にやるといいのが、比べることです。

飲み物の棚で言えば、隣に並んでいるものと比べてみる。同じような値段で、同じような中身なのに、片方だけよく売れている。何が違うのか。

これを自社でもやってもらいます。ここで一つ、上に立つ側が気をつけたいことがあります。

比べる相手は、憧れの大手ではなく、自社と同じくらいのところにするということです。

大きすぎるところと比べると、違いが多すぎます。予算も、人数も、知名度も全部違うので、何を真似ればいいのか分からなくなる。それで「うちには無理です」で終わってしまう。担当者のモチベーションが下がるのは、たいていこの瞬間です。

同じくらいのところなら、違いが少ないので、一つひとつが見えます。あそこはこれをやっている、うちはやっていない。そのくらいの粒で出てくる。その粒が、そのまま次にやることになります。

育成という観点で言うと、ここが分かれ目です。手が届く比較対象を渡せば、担当者は自分で次の一手を見つけられるようになります。届かない比較対象を渡すと、評論だけがうまくなります。

一つだけ変えて結果を見る

最後が、一つだけ変えて、結果を見る、ということです。

全部いっぺんに変えると、うまくいったときに何が効いたのか分かりません。だから、次に何をすればいいかも分からない。改善のサイクルが、そこで止まります。

これは仕事以外でも練習できます。たとえば、家族に何かをお願いするときに、言い方を一つだけ変えてみる。それで返ってくる反応が変わるかどうかを見る。やっていることは、まったく同じです。

そして、組織としてここで大事なのは、一つだけ変える、という進め方を許容できるかどうかだと思っています。

短期の成果を求めると、どうしても一度に全部変えたくなります。ですが、それをやると担当者に何も蓄積しません。半年後にまた外部に頼むことになります。

外に出す前に内側に溜める

まとめます。

担当者を育てる入口は、買う側の自分を見てもらうことだと思っています。なんでそれを選んだのか。なんで人に話したくなったのか。誰が使って、誰が決めているのか。

そのうえで、近いところと比べて、一つだけ変えて、結果を見る。

本や講座は、そのあとでいいと思っています。先に本人の中に「なんでだろう」が溜まっていると、学んだことが、あ、これはあのときのことだ、と刺さるようになります。

費用も、時間も、ほとんどかかりません。今日から始められます。

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