評価面談で短所を指摘し続けると、その人らしさが消えていく
評価面談で短所を伝え、次の期までにそこを改善してもらう。多くの組織でこれが標準的なやり方になっています。ですが、短所を埋める作業は、ある地点から先で人の輪郭を消していきます。今日は、埋めさせる前に一度やってみてほしいことを書きます。
影を全部消すと、平べったくなる
僕は写真も撮るので、撮影のときに影のことをよく考えます。
影を全部消すことは、技術的にはできます。左右と上から均等に光を当てて、影が出ないようにする。そうするとどうなるかというと、平べったくなるんです。奥行きがなくなって、のっぺりした絵になる。かたちが分からなくなります。
料理でも、建物でも、人の顔でもそうです。立体に見えているのは、明るいところと暗いところがあるからです。ですから撮影でやっているのは、影を消す作業ではなく、影をどこに置くかという作業になります。
人の評価も、これと同じ構造だと思っています。
短所を一つずつ埋めていくと、たしかに欠点は減ります。ですが、全部埋め終わったとき、その人は「何が得意な人」なのかが分からなくなっていることがある。減点が少ないだけの、平べったい評価が残ります。
影は、その人の性質ではない
そもそもの話をします。
ここにコップが一つあるとします。光が当たっている面と、影になっている面があります。ですが、コップ自体に光の部分と影の部分があるわけではありません。光がどこから当たっているか、それだけで決まっています。照明を反対側に持っていけば、さっきまで影だったところが光になる。コップは何も変わっていません。
組織の中の評価も、かなりの部分がこれだと思っています。
たとえば、決断が遅い、と評価されている人がいるとします。同じ振る舞いを別の角度から見ると、確認する回数が多い、ということかもしれません。前者は納期の観点から見た評価で、後者は品質の観点から見た評価です。その人は何も変わっていません。どちらの光を当てているか、だけの違いです。
口数が少ない、も同じです。会議での発言数という光を当てれば短所になりますが、若手が相談しやすいかどうかという光を当てれば、まったく違う評価になることがあります。
ですから、短所を伝える前に一度やってみてほしいのは、その短所が短所になる光を、いま組織が一種類しか当てていないのではないかと疑ってみることです。
ただし、全部が反転するわけではありません
ここは正直に書いておきます。
捉え方次第だ、見方を変えれば全部長所になる、という言い方には賛成できません。無理に反転させると、嘘になるからです。
納期を守れないことを「丁寧に作っている」と言い換えたとします。言葉の上では成立しますが、相手が困っている事実は変わっていません。それは光の向きを変えたのではなく、影を隠しただけです。組織の中でこれをやると、いちばん困るのはその人の周りにいる人たちです。
違いはたぶんここにあります。その影が、誰かにとっての価値になっているかどうか。
誰の役にも立っていないなら、それはただの短所です。改善してもらうべきです。ですが、誰かの役に立っているなら、それは配置の問題であって、本人の改善課題ではありません。
この二つを分けずに、短所という一つの袋に入れてしまうと、直さなくていいものまで直させることになります。
自分の影は、自分からいちばん見えにくい
そして、これが厄介なところです。
自分の影は、自分からいちばん見えにくいんです。なぜかというと、自分は光の側に立っているからです。自分から見ると、自分にはずっと光が当たっている。影ができているのは、いつも向こう側なんですよね。
つまり、本人に「あなたの強みは何ですか」と聞いても、まず出てきません。これは謙遜ではなく、構造的に見えないからです。
僕がブランディングの現場で経験してきたことと同じで、会社に「御社の強みは何ですか」と伺うと、たいてい出てきません。しばらく考えて、うちは特に何もないんですよね、と言われる。ところが、困っていることは何ですか、と伺うと、すぐに出てきます。
ですから、面談でも同じことができると思っています。強みを聞くのではなく、やりにくいこと、時間がかかっていることを聞く。そこには必ず理由があります。理由があるものは、誰かにとって意味を持つ可能性がある。
そして、本人が自分では見えないのだとしたら、それを言えるのは周りの人だけです。上司から見えている光の当たり方を、そのまま言葉にして渡す。それは評価というより、情報提供に近いと思っています。
組織にとって、光源が一つなのがいちばん危ない
最後に、組織側の話を書いておきます。
ここまでの話をまとめると、問題は短所そのものではなく、光源が一つしかないことです。
評価軸が一種類しかない組織では、そこに合わない人は全員が短所を持つことになります。そして、その人たちが短所を埋めようと努力すればするほど、組織の中の人材は似ていきます。全員が同じ方向から光を当てられて、同じ影を消しにいくので、当然そうなります。
数字が伸びている時期は、これが効率的に見えます。似た人が揃っているほうが、同じやり方が速く回るからです。問題が出るのは、環境が変わったときです。別の角度から光が当たったとき、社内に立体的な人が誰も残っていない。
人が育つ組織かどうかは、教育の量よりも、評価の光源をいくつ持っているかに出ると思っています。
短所を埋めさせるのは、そのあとでも遅くありません。まず、その影がどこから見たら光になるのかを、一度だけ探してみる。それだけで、残る人が変わります。