広報・採用

「やる気のある人募集」が、誰にも届かない理由

written by 中村 弘樹

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「やる気のある人、募集しています」。求人票でよく見かける言葉ですが、これはたぶん、誰にも刺さりません。誰でもいいという言葉が集めるのは、結局のところ「誰でもいい人」だからです。届く求人は、たいてい、たった一人に宛てて書かれています。

「20代の女性が喜ぶもの」は選べない

少し遠回りをします。「20代の女性が喜ぶものを選んでください」と言われたら、たぶん困ります。範囲が広すぎて、何を買えばいいのかぼんやりしてしまう。

でも「来週が誕生日の妹に」と言われたら、急に選べる気がしてくる。あの子、最近仕事が忙しそうだったから、家でホッとできるものがいいかな、と。顔が浮かぶと、選べるんです。

採用や広報の言葉も、これと同じ構造をしています。「求職者の皆さんへ」で書き始めた瞬間に、選べなくなる。何を書けばいいのか分からなくなって、結果、どの会社の求人票にも書いてあるような言葉が並ぶ。

層(地図)と、そこに立つ一人

マーケティングの言葉でいうと、狙う層のことをターゲット、その中にいるたった一人を具体的に描いたものをペルソナと呼びます。

ターゲットは地図です。「20代後半、異業種からの転職希望」といった範囲を決める。これはこれで必要で、全方位に向けて採用活動をするのは現実的ではありません。ただ、地図だけでは顔が見えない。その人が今日どんな一日を過ごして、何にほっとして、何にもやもやしているのか。そこまでは見えてこない。人の心を動かす言葉は、その「顔」のところから生まれます。

ここで誤解されやすいのが、ペルソナは「平均的な人」ではない、ということです。むしろ逆で、思いっきり具体的な一人にしていく。「20代後半の平均的な転職希望者」と言われても顔は浮かびませんが、「前の職場で数字ばかりを追うのに疲れてしまって、自分の仕事が誰の役に立っているのか分からなくなっている人」と言われると、急に像が結ぶ。

平均に寄せるとぼやけて、一人に寄せるとくっきりする。求人の文面でいえば、「やる気のある人募集」は誰にも刺さらないけれど、「前の職場で、数字ばかりを追うのに疲れてしまった人へ」だと、「あ、私のことだ」と思う人が出てきます。

絞ると母数が減る、という不安について

一人にまで絞ったら、その他の大勢に届かなくなるのではないか。採用の現場では、これが一番の不安だと思います。ただでさえ応募が少ないのに、これ以上狭めてどうするのか、と。

でも実際は、逆のことが起きます。みんなに向けた言葉は、誰の心にも残らないからです。

駅前に「皆さん、ぜひお立ち寄りください」と書かれた看板があっても、たぶん素通りします。自分に言われている気がしないからです。でも「仕事帰りに、少しだけ一人になりたいあなたへ」と書いてあれば、足が止まる人がいる。全員に呼びかけると自分ごとにならないのに、たった一人にはっきり呼びかけると、それに当てはまる人が自分のことだと感じてくれる。

そして、一人に向けて本気で書かれた言葉は、似た気持ちを持っている人たちにも届いていきます。絞ることは、狭めることではなく、深く届かせるためのやり方です。応募数が同じでも、噛み合う人の割合が変わる。採用でいちばん高くつくのは、入ってから「思っていたのと違った」となることなので、ここは効きます。

その一人を、空想でつくらない

ただし、この一人は、会議室で勝手につくるものではありません。

実際にいる社員の顔。入社面接で聞いた言葉。辞めていった人が最後に話してくれたこと。そういう本物の欠片を持ち寄って組み立てます。都合のいい理想の人材像を空想でつくってしまうと、その人はたいてい現実には存在せず、言葉が上滑りする。「主体性があって、素直で、成長意欲が高い人」——そう書きたくなったときは、たいてい空想のほうに寄っています。

広報や人事の担当者を育てるとき、僕がいちばん時間をかけてもらうのはここです。文章のうまさより先に、誰に宛てて書いているのかを決められるかどうか。そこが決まっていない状態で書き方だけ教えても、無難な文章が上手にできるようになるだけなんです。

一人の顔は、チームの判断基準になる

この一人を描く効果は、文章だけにとどまりません。

採用サイトの写真をどうするか、どんな言葉を使うか、説明会で何を話すか。決めていくときに、はっきりした一人の顔がないと、判断がブレます。あれもいいな、これもいいな、で、だんだん八方美人になっていく。関わる人が増えるほど、この現象は強くなります。

でも「この一人だったら、こっちの言葉のほうが響くよね」と話せると、みんなが同じ方向を向く。ペルソナは飾りではなく、迷ったときに立ち返る判断の基準です。正解を一つに決めるためというより、チームで同じ人を思い浮かべるために描いている、というほうが実感に近い。

逆にいえば、社内で意見が割れて決まらないとき、対立しているのは好みではなく、それぞれが別の人を思い浮かべていることのほうが多いんです。

地図と一人は、セットで使う

念のためですが、ターゲットがいらないという話ではありません。どのあたりを狙うのかという地図がないまま、いきなり一人だけを見てしまうと、今度はその一人だけの偏った話になってしまう。

広く場所を決めるターゲットと、そこに一人を立てるペルソナ。この二つはどちらかを選ぶものではなく、両方セットで使うものです。地図があるから安心して一人に近づけるし、一人がいるから地図に体温が通ってくる。

次に採用の文面や社内報を書くとき、「みんなに向けて」書くのを一度やめて、「あの人に読んでほしい」という一人を決めてから書いてみる。社内にいる誰かでも、昔の自分でもいいと思います。その一人に話しかけるつもりで言葉を選ぶと、結果として、もっと多くの人に届く言葉になっていきます。

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