値上げの知らせを書く広報が、先に聞くこと
価格の改定が決まると、お客様や取引先へのお知らせの文面は、広報や総務の担当者に回ってきます。決めたのは経営で、書くのは担当者。このとき担当者に渡されるのが、新しい価格表と「丁寧にお詫びしておいて」というひとことだけ、ということもあります。
その材料だけで書くと、文面はお詫びで埋まっていきます。
材料が足りないとお詫びが増える
値上げのお知らせを読んでいると、書き出しが似ていることに気づきます。たとえばこうです。
「昨今の原材料費および人件費の高騰を受け、誠に心苦しいのですが、誠に勝手ながら価格を改定させていただきます。」
お詫びが二回入っています。何がいくらになるのかは、下の表まで読まないと分かりません。
書くための材料がお詫びのほかに渡されていなければ、担当者はこう書くしかありません。価格と気持ちだけを渡されたら、誰が書いても、気持ちのほうが長くなります。
お詫びが先に来ると、受け取った人はまず、何か困ったことが起きたのだと身構えます。書き手が申し訳なさそうに出した価格を、気持ちよく受け入れるのは、なかなか難しいと思います。
書く前に経営者に聞く四つ
お知らせを開いた人が知りたいのは、いつから、いくらになるのか。何が変わらないのか。選べることはあるのか、の三つです。これに理由を加えた四つを、担当者は書き始める前に経営者へ聞いておきます。
- いつから、いくらになりますか。相手が払う金額で聞いておきます。「1割の値上げ」と書かれると、読む人は頭の中で計算し直すことになります。
- 変わらないことは何ですか。量や回数、担当者、サービスの範囲など。値上げの知らせを読む人は、何かが減るのではと身構えています。
- 上がったぶんで、何をしたいですか。物価や人件費を並べると、どこの会社とも同じ文になります。その会社の理由は、この答えの中にあります。
- お客様が選べることを、用意できますか。小さい単位の商品、回数を減らした契約、見直しの相談の期限。選べることがひとつあると、読む人は知らされる側から、自分で決める側に回れます。
菓子メーカーの広報で考えてみる
作例で考えます。社員25名ほどの菓子メーカーで、広報をひとりで担当している人がいるとします。直売店と通販で売っている焼き菓子の詰め合わせを、12個入り1,800円から2,000円にすることが決まりました。
四つを自社の社長に聞いたところ、答えはこうだったとします。
- いつから、いくら:11月1日から、12個入りを1,800円から2,000円に。
- 変わらないこと:入っているお菓子の種類と数。
- 上がったぶんでしたいこと:工場の人をひとり増やして、夏のあいだも休まず焼けるようにしたい。毎年7月と8月は、詰め合わせをお休みしていた。
- 選べること:8個入りを1,300円で用意できる。
これで、文面はこう書けます。
「11月1日のご注文から、焼き菓子の詰め合わせ12個入りを、1,800円から2,000円に改めます。入っているお菓子の種類と数は、これまでと同じです。来年からは工場の人手を増やし、7月と8月も詰め合わせをお休みせずにお届けします。8個入り(1,300円)も、新しくお選びいただけるようになります。お手数をおかけしますが、これからもどうぞよろしくお願いいたします。」
お詫びは最後の一回になりました。気持ちは、それで届くと思います。重ねるほど、値段そのものに非があるように読めてしまいます。
文面より先に口で伝える人へ渡す
もうひとつ、担当者が決められることがあります。文面を配る順番です。
毎週顔を合わせるお客様や取引先がいるなら、紙やメールより先に、口で伝えられると一番です。この菓子メーカーなら、直売店のスタッフが常連のお客様に「11月から詰め合わせの値段が変わります。お知らせをお渡ししますね」とひとこと言う。卸先には、営業の担当が先に電話を入れる。
そのためには、お知らせを外に出す前に、店頭と営業へ文面を渡しておきます。紙だけが先に届くと、受け取った人は、ひとこと言ってくれればよかったのに、と思うかもしれません。口で聞いたあとなら、紙は金額と中身の確認に使われます。
担当が替わっても同じ順番で書けるように
値上げのお知らせは、次に書くまでに何年もあくことがあります。前回書いた人が、もう社内にいないこともあります。四つの質問と文面の順番を残しておけば、次に担当する人も同じところから書き始められます。
- 経営者に四つを聞き、答えをそのまま書き留める。
- 最初の一文に、いつからと、いくらを入れる。
- 変わらないこと、上がったぶんでしたいこと、選べることの順に一文ずつ足す。
- お詫びの言葉を数え、二回以上あれば一回にする。
- 外に出す前に、店頭や営業など、口で伝える人に文面を渡す。
値上げをすれば、離れていくお客様も出ると思います。それでも文面は、これからも続けて買ってくれる人に向けて書きます。お詫びを重ねた文は、その人たちにも同じように届くからです。