道具を入れるときは、やめることも決める
会社に新しい道具や決まりごとを入れるとき、話が進むのは、たいてい入れるほうです。何を使うか。いつから始めるか。何をやめるかは、あとで考えることになりがちです。
やめるものを一緒に決めていないと、仕事机の上と同じことが起きます。増えたぶんだけ決めることが増えて、集中力がそちらへ流れていく。
机の上で起きていること
僕はここのところ、身のまわりのものを捨てています。服や家の中のものに加えて、仕事場の机と事務所も、いま進めている途中です。捨てながら腑に落ちたのは、ものは情報だということでした。
読みかけの本が目に入れば、続きを読まなきゃ、と頭の中を一文が通る。返事を出していない封筒なら、返事、と通る。一つずつは一秒もかかりません。それが二十も三十もあれば、自分では読んでいないつもりでも、目のほうは全部読んでいます。
捨ててみてはっきりしたのは、決めることの数が減ったことでした。僕の場合、夜にぐったりしているのは、重い判断が一つあった日より、小さな決めごとが朝から晩まで続いた日のほうです。疲れに近いところにあるのは、決めた回数のほうだと感じています。
会社の中でも、同じことが起きる
ここからは作例です。十数人の設計事務所が、案件の進み具合をみんなで見られる管理の道具を入れたとします。入れたこと自体は、よい判断です。
ところが、それまで使っていた表計算の進行表も、朝のチャットでの報告も、そのまま残っています。進み具合を確かめる場所が三つになり、どれが新しいのかを、一人ひとりが毎回決め直すことになる。入れたのは一つでも、決めることは全員ぶん増えています。
このとき、道具を入れる話と同じ場で決めておけることがあります。
- 代わりに、何をやめるか(表計算の進行表をやめる、朝の報告をやめる)
- いつやめるか
- やめたことを誰が全員に伝え、これからはどこを見ればいいかを示すか
みんなで使う棚と同じように
事務所の棚から何かを外すと、あとで誰かが探しに来ます。だから外したことをひとこと伝え、戻す場所も決めておく。少し手間は増えます。それで、同じ棚を使う全員が、探したり迷ったりする回数が減ります。
会社の決まりごとも、この棚に近いと思います。やめたことが伝わっていないと、残った人はそれぞれに、前のやり方も続けたほうがいいのかを考えることになります。やめたことと、代わりに見る場所をひとこと添える。それで、全員の頭の空きが少し戻ります。
「これ、やめませんか」と言える人
会議で「これ、やめませんか」と言える人が一人いる会社は、それだけで強いのかなと思っています。
その一人が言えば、増えつづけるはずだった決めごとが、そこで一つ止まります。
考えて言葉にする仕事の材料は、頭の空きぐあいです。次に新しい道具や決まりごとを入れる会議では、「代わりに何をやめますか」を一つ、議題に足してみてください。