50人未満の事業場にもストレスチェックが義務化される
2025年5月に公布された改正労働安全衛生法により、これまで努力義務だった労働者数50人未満の事業場についても、ストレスチェックの実施が義務化されることになりました。
厚生労働省の現在の案内では、施行日は2028年4月1日です。なので、現時点ですべての小規模事業場に義務が生じているわけではありませんが、実施に向けた準備が必要な段階に入っています。厚生労働省「ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策」
ストレスチェックは、社員自身が自分のストレス状態に気づき、必要に応じて医師による面接指導などにつなげるための制度です。しかし、チェックを年に一度実施するだけで、社員が安心して働ける会社になるわけではありません。
大切なのは、結果が出たあとに会社が何をするか。そして、チェックを受けるほどではないと思っている社員も含めて、日頃からどのように声を上げられる環境をつくるかです。
ストレスは、本人にも正体が分からないことがある
社員がつらそうに見えても、本人から出てくる言葉は必ずしも本当の原因を表しているとは限りません。
「残業が多い」
「給料が低い」
「仕事が面白くない」
「この会社では成長できない」
もちろん、それ自体が改善すべき問題である場合もあります。
一方で、話を丁寧に聞いていくと、苦しさの中心が別のところにあることもあります。
周囲の期待に応えようとして、仕事を断れない。分からないことを質問すると能力がないと思われそうで、聞けない。上司に意見を伝えても変わらなかったため、諦めている。自分の得意なことと役割が合っておらず、努力しても成長を感じられない。
こうした内側の問題は、本人もすぐには言葉にできません。
何がつらいのか整理できないまま、「とにかく仕事へ行きたくない」「転職した方がよいかもしれない」という大きな結論に向かってしまうことがあります。
だから、数値によって心の状態を確認することと同時に、本人が自分の状態を言葉にできる機会が必要です。
人数が少ない会社ほど、「誰に話すか」が難しい
小規模な会社では、社長が人事を兼任していたり、直属の上司が評価者であり相談相手でもあったりします。
関係性が近いからこそ相談しやすい人もいますが、反対に話しづらくなる社員もいます。
「異動したいと言ったら、今の仕事を否定していると思われるかもしれない」
「人間関係に悩んでいると話したら、すぐ相手に伝わってしまいそう」
「体調がつらいと言えば、仕事を任せてもらえなくなるかもしれない」
「お世話になっている社長を困らせたくない」
真面目で責任感の強い社員ほど、会社や周囲を思って言葉を濁してしまうことがあります。その結果、経営者からは突然の休職や退職に見えても、本人の中では長い間悩み続けていた、ということが起こります。
社員が話さなかったからといって、会社への信頼がまったくなかったとは限りません。
話した後に何が起きるか分からないことが、不安だったのかもしれません。
目指したいのは「ストレスチェックをする会社」ではなく「困ったときに話せる会社」
制度への対応は必要です。
しかし、Think for Designがつくりたいのは、ストレスチェックを正しく実施して終わる会社ではありません。
社員が限界を迎える前に、自分の変化に気づけること。困ったときに相談できること。そして、相談した内容をもとに、本人と会社が一緒に選択肢を考えられることを大切にしています。
そのためには、いきなり「何か悩みはありますか」と聞くだけではなく、日頃から自分の状態を振り返る習慣をつくる必要があります。
最近、仕事を進めやすかったのはどのような日だったのか。反対に、どのような状況で気持ちが重くなったのか。自分の強みを生かせた仕事は何か。負担を感じるのは、業務量なのか、役割なのか、人間関係なのか。どのようなサポートがあれば、もう少し働きやすくなるのか。
こうした問いを通して自己理解が進むと、社員は「つらい」「辞めたい」だけではなく、自分が困っていることや必要な支援を具体的に伝えやすくなります。
話を聞いたあと、すべてをかなえる必要はない
社員の声を聞くことに対して、「要望を聞いたら、全部対応しなければならなくなるのでは」と心配する企業もあります。
しかし、話を聞くことは、希望をすべて受け入れることではありません。
会社としてできること、すぐには難しいこと、条件が整えば検討できることを分けて伝えればよいのです。
例えば、すぐに異動することは難しくても、苦手な業務をフォローする体制はつくれるかもしれません。勤務時間を大きく変えられなくても、月に数回は希望休を取りやすくできる可能性があります。新しい役職を用意できなくても、本人の強みを生かせる小さな役割を任せることはできます。
たとえ希望どおりにならなくても、「話を聞いてもらえた」「難しい理由を説明してもらえた」「一緒に方法を考えてもらえた」という経験は、会社への信頼につながります。
一番避けたいのは、声を集めたまま何も伝えず、社員に「話しても意味がなかった」と感じさせることです。
外部だからこそ、聞けることと整理できることがある
Think for Designでは、ワークショップや個別コーチングを通して、社員が自分の価値観、強み、働きにくさ、今後望む役割を言語化する支援を行っています。
私たちは社員を評価する立場ではありません。だからこそ、社内では言いにくい気持ちも含めて整理しやすくなります。
ただ話を聞いて終わるのではなく、本人が自分から上司へ相談できるように伝え方を一緒に考えます。社員個人の特定につながらない形で共通する課題を整理し、必要に応じて経営者や管理職へフィードバックすることで、業務体制や人材育成、1on1の改善にもつなげます。
なお、治療や医学的な判断が必要な状態については、医師や産業保健の専門機関につなぐことが前提です。厚生労働省も、小規模事業場向けに産業保健総合支援センターや地域産業保健センターなどの相談・支援窓口を案内しています。厚生労働省「労働者数50人未満の小規模事業者の方」
Think for Designが担うのは、その手前にある日常の対話です。
社員が自分の状態を知り、必要なときに相談し、自分なりの解決策を考えられるようになること。管理職が一人ですべてを察し、抱え込まなくてもよい状態をつくること。
ストレスチェックの義務化を、制度対応の負担としてだけ捉えるのではなく、自社のコミュニケーションや働き方を見直すきっかけにする。
50人未満の会社だからこそ、一人の不調が職場全体へ与える影響は小さくありません。同時に、一人の声をきっかけに会社全体を変えやすいのも、小規模な会社の強みです。
「社員の状態を確認する会社」から、「社員が困ったときに話せる会社」へ。
その環境を、今から少しずつ整えていくことが大切だと考えています。