社員の声を聞いたあと、会社は何をすればよいのか
社員アンケートや1on1、キャリア面談を実施し、社員の声を聞く企業が増えています。
とても大切な機会ですが、社員の声を聞くこと自体が目的になってしまうと、かえって会社への信頼を下げることがあります。
社員は、普段言えなかったことを伝えるために、少なからず勇気を使っています。それでも何の反応もなく、状況も変わらなければ、「言っても意味がなかった」と感じるからです。
次に同じようなアンケートや面談があっても、当たり障りのないことしか書かなくなるかもしれません。
社員の声を聞くことよりも、その声を受け取ったあとに会社がどう向き合うか。そこに、組織への信頼が表れます。
社員の希望を、すべてかなえる必要はない
社員の声を聞くことに対して、企業側からはこのような不安を聞くことがあります。
「希望を聞いても、全部はかなえられない」
「異動したいと言われても、受け入れ先がない」
「一人の希望を認めたら、ほかの社員との公平性が保てない」
「会社にも事情があることを分かってほしい」
どれも、もっともな心配です。
社員の声を聞くことは、要望をすべて受け入れると約束することではありません。すべての社員が希望する仕事内容や勤務時間、収入、役職を用意することも現実的ではないですよね。
ただ、かなえられないことと、何も答えないことは違います。
社員が求めているのは、必ず希望を通してもらうことだけではありません。自分の話をきちんと受け止めてもらい、会社としてどのように考えたのかを知ることにも意味があります。
「今すぐ異動することは難しい」だけで終わるのではなく、その理由を伝える。将来的な可能性があるなら、必要な経験や時期を示す。異動はできなくても、現在の部署で一部の業務を変えられないか考える。
希望どおりにならなくても、会社が一緒に選択肢を考えたことが伝われば、本人の受け止め方は変わります。
まずは、社員の声を三つに分けて考える
社員から出てきた意見は、すぐに「対応する・対応しない」の二択にしないことが大切です。
まずは、次の三つに分けて整理します。
すぐに対応できること
相談方法を明確にする、会議の進め方を変える、業務マニュアルを共有する、仕事の優先順位を確認するなど、大きな費用や制度変更がなくても改善できることです。
小さな内容であっても、早く対応すると「話を聞いてもらえた」という実感につながります。
すぐには難しいが、検討できること
異動、勤務時間の変更、評価制度の見直し、人員配置など、ほかの社員や部署との調整が必要な内容です。
この場合は、「考えておくね」だけで終わらせず、誰が確認するのか、いつ頃までに回答するのかを伝えます。
結果が出るまで時間がかかるとしても、途中経過が分かれば、社員は放置されているとは感じにくくなります。
現時点では対応が難しいこと
事業上の理由や公平性、費用、法令、現在の人員体制などから、希望に応えられないこともあります。
その場合も、難しい理由をできる範囲で説明します。
ただ断るのではなく、本人が本当に求めているものを確認すると、別の方法が見つかる場合があります。
例えば「異動したい」という希望の背景に、現在の仕事では成長を感じられないという悩みがあるなら、異動以外にも、新しい業務を任せる、社内プロジェクトへ参加してもらう、研修を受けてもらうといった方法を考えられます。
要望の表面だけで判断せず、「なぜ、それを求めているのか」まで聞くことが重要です。
小さな改善を、社員に見える形にする
企業は、制度の変更や大規模な改革をしなければ、改善したことにならないと思いがちです。
しかし、社員が求めているのは、必ずしも大きな変化だけではありません。
大切なのは、「社員の声を受けて変えた」と伝えることです。
会社側が対応していても、社員がその経緯を知らなければ、自分たちの声が反映されたとは感じられません。
声と変化のつながりを見えるようにすることで、「伝えれば、一緒に考えてもらえる」という経験が生まれます。
その経験が、次の相談や提案につながっていきます。
「できない理由」だけでなく「できる範囲」を探す
社員から希望を聞いたとき、会社側はどうしても実現できない理由から考えてしまいます。
「人が足りない」
「前例がない」
「一人だけ特別扱いできない」
もちろん、確認しなければならないことです。
ただ、希望をそのまま実現することが難しくても、一部分なら対応できるかもしれません。
リモート勤務を希望している社員に、毎日は認められなくても月に数回なら試せる。異動は難しくても、希望する部署の業務を一部経験できる。管理職にはすぐなれなくても、プロジェクトの進行を任せられる。
ゼロか百かで考えず、会社と本人ができる範囲を探すことが大切です。
小さな一歩でも実際に試すことで、会社側も効果や課題を確認できます。本人にとっても、自分の希望に近づいている感覚が生まれます。
声を聞くなら、安心して話せる条件も整える
社員の本音を聞きたいのであれば、話した内容がどのように扱われるのかを、事前に明確にする必要があります。
誰が内容を見るのか。上司へどこまで共有されるのか。評価に影響することはないのか。匿名のアンケートは、本当に個人が特定されないのか。
この点が曖昧なままでは、社員は正直に話せません。
特に、上司との人間関係や今後のキャリア、心身の負担については、評価する立場の人には話しにくいことがあります。
外部のコーチやキャリアコンサルタントなど、評価から離れた第三者だからこそ話せる内容もあります。
ただし、外部の人が話を聞いて終わるのでは、組織の改善にはつながりません。個人の守秘義務を守りながら、複数の社員に共通する課題を特定されない形で整理し、会社へ還元する仕組みが必要です。
声を聞くことと、会社が変わることをつなげる
Think for Designでは、アンケートや個別コーチング、ワークショップを通して、社員が感じていることを言葉にする支援を行います。
ただし、社員の本音を集めることだけを目的にはしていません。
本人が何に困っているのか、どのような役割を望んでいるのか、現在の仕事で生かせている強みは何かを整理します。そして、自分から上司へ相談したり、必要なことを提案したりできる状態を目指します。
同時に、個人が特定されない形で組織全体の傾向を整理し、会社として対応できること、検討が必要なこと、現時点では難しいことを一緒に考えます。
社員の声を聞くことは、会社がすべての希望をかなえることではありません。
声を受け止め、会社として考え、結果を伝え、できることから動くことです。
その積み重ねによって、社員は「話しても意味がない」ではなく、「伝えれば、一緒に考えてもらえる」と感じられるようになります。
社員が安心して声を上げ、会社がその声を組織づくりに生かせること。それが、社員と会社が一緒に成長するための土台になります。