AI時代に、人を育てるために残す仕事
AIを入れると、作業は速くなります。では、人はどこで育つのか。
結論から書くと、AIに渡していいのは「作る」ところまでです。決めること、聞くこと、決めたあとを一緒に背負うこと。この三つは人に残り、しかも、この三つでしか人は育ちません。だから、若い人から先にこの三つを取り上げてしまうと、組織の中に判断できる人がいなくなります。
AIで質が上がるのは経験のある人
先に、順番の話をします。
AIは、いい感じにして、と言っても、いい感じにはなりません。もう少し余白を取って、この行は主語を変えて、写真は人が写っていないほうにして。そう言える人が使うと、三回か四回のやりとりで、かなりのところまで来ます。
言えない人が使うと、何度出し直しても、同じところを回ります。出てきたものが良いのか悪いのかが分からないので、指示のしようがないからです。
つまり、AIは、その人が持っているものを速くする道具です。持っていないものは、速くなりません。
ここが、組織にとっては難しいところです。経験のある人ほど成果が上がるので、任せるより自分でやったほうが速い、という状況が今までより強くなります。
人に残る三つは人が育つ三つ
AIが速くしたのは、作るところだけです。前と後には、人がやらないといけないことが残ります。
一つめは、決めること。AIは選択肢をいくらでも出しますが、どれにするかは決めてくれません。正確に言うと、決めてはくれるけれど、その結果を引き受けてはくれない。これで行きましょう、と言った以上、うまくいかなかったときにその場にいるのは人のほうです。決めるとは、選ぶことではなく、引き受けることです。
二つめは、聞くこと。相手が困っていることは、そのままの言葉では出てきません。ホームページを新しくしたい、という相談の中身が、実は社内で説明する材料がないことだったりします。これは文字にして渡せる情報ではないので、会って、話して、間や言いよどんだところから見つけるしかない。AIには、そもそも渡す材料がありません。材料を作るところは、人の仕事のままです。
三つめは、決めたあとを一緒に背負うこと。作って終わりではなく、出したあとに直すところが必ず出てきます。思ったほど反応がない、社内から別の意見が出た。そのときに一緒に考える人がいるかどうか。ここは、道具では埋まりません。
この三つは、そのまま、人が育つ場所でもあります。決めた経験のない人は、決められるようになりません。聞いた経験のない人は、聞けるようになりません。背負った経験のない人は、背負えるようになりません。
作業ではなく小さな判断を渡す
これまでの育て方は、簡単な作業から渡して、だんだん難しい作業に上げていく、という形が多かったと思います。手を動かすところに時間がかかっていたので、そこを分担するのが自然でした。
その簡単な作業を、いまAIが引き受けはじめています。
すると、上の人が「作るところ」をAIと二人でやってしまい、若い人には何も残らない、ということが起きます。悪気はありません。そのほうが速いからです。
ただ、そうすると、判断の練習をする場所がなくなります。三年経っても、指示を受けて動く人のままになる。
渡し方を変えるしかないと思っています。作業ではなく、小さな判断を渡す。この二案のどちらで進めるか、あなたが決めてください、と言う。そして、決めた結果を一緒に引き受ける。
失敗したときに上が責任を取るなら、決めさせても組織は壊れません。壊れるのは、決めさせておいて、うまくいかなかったときに本人のせいにしたときです。
見ないまま出さないという線
もう一つ、はっきりさせておきたい線があります。
AIが出したものを、自分で見ないまま外に出す。これが一番危ない使い方です。見ていないものを渡すというのは、判断を渡してしまっているということなので。
作るところは渡していい。判断だけは渡さない。この線を、チームの中で言葉にしておく。誰が最終的に見たのか、が決まっていない状態で使うと、事故は必ず起きます。
そして、使わない、という選択も勧めません。使わないでいると、手を動かす部分に時間を取られて、さきほどの三つに使う時間がなくなります。道具を持たない誠実さは、相手のためになりません。
最後に選ばれるのは人のほう
同じようなものが出せる会社は、これから増えます。作れることが、選ぶ理由にならなくなる。
そうなると、何で選ばれるのか。たぶん、その人がどういう人か、です。
約束を守るか。都合の悪いことを先に言うか。分からないことを、分かったふりをしないか。うまくいかなかったときに、逃げずにその場にいるか。
これは資格でも実績の数でもなく、何度かやりとりした感じの中に出てしまうものです。前からずっと言われてきたことですが、これまでは作れるかどうかで差がついていたので、後ろに置かれていました。それが前に出てくる、という話だと思っています。
採用でも同じことが起きます。作れる人を採る、という基準は、これから効きにくくなります。決められる人か、聞ける人か、背負える人か。そこを見るしかない。
そして、その三つは、入社した時点では誰も持っていません。組織の中で渡された回数だけ育ちます。