人材育成

営業トークを教える前に、社員自身の言葉を見つける

営業や接客がうまくいく人を見ていると、話し方が上手だから、商品知識が豊富だから、相手のニーズを引き出せるから、といった理由が浮かびます。

もちろん、どれも必要な力です。

ただ、私がキャリア支援やコーチングをする中で感じるのは、お客様との関係を築ける人ほど、商品だけでなく「自分のこと」を理解しているということです。

なぜ自分はこの会社で働いているのか。

この商品やサービスの、どこに魅力を感じているのか。

これまでのどのような経験が、今の仕事につながっているのか。

お客様に、どのような価値を届けたいのか。

こうしたことを自分の言葉で話せるため、単なる商品説明ではなく、その人だからこそ伝えられるストーリーが生まれます。

「私はこういう経験をしたから、このサービスを必要としている人の気持ちが分かります」

「実際に働く中で、うちの会社のこの姿勢を信頼できると感じました」

「この商品によって、お客様にこんな変化を届けたいと思っています」

その言葉からは、「会社に言われたから売っている」のではなく、「自分自身が価値を感じているから届けたい」という意思が伝わります。

お客様が信頼するのは、きれいに整えられた営業トークではありません。目の前にいる人が、その言葉を本当に信じているかどうかも感じ取っています。

営業トークに違和感が生まれる理由

企業では、営業研修や接客研修の中で、商品の魅力や伝え方を学ぶ機会があります。

会社として伝える内容を統一することは大切です。誰が対応しても重要な情報が正しく伝わり、会社らしい価値を届けられる状態は、ブランドへの信頼にもつながります。

一方で、すべての社員が同じトークをそのまま話せばよいわけではありません。

会社が用意した言葉と、本人が心から感じていることの間にずれがあると、話すほど苦しくなる場合があります。

このような状態では、「会社に言わされている」「自分に嘘をついている」という感覚が生まれることがあります。

最初は、仕事として割り切れるかもしれません。しかし、自分が納得していない言葉を繰り返し使い続けると、仕事と自分の気持ちが少しずつ離れていきます。

それは、仕事へのやりがいを失うきっかけになったり、無理を重ねることで離職や心身の不調につながったりする可能性もあります。

問題は、営業トークそのものがあることではありません。

社員が自分の経験や価値観とつなげて、納得できる言葉にできていないことです。

同じ商品でも、伝えたい理由は一人ひとり違う

同じ会社で同じ商品を扱っていても、社員が魅力を感じるポイントは異なります。

自分自身が過去に困った経験があり、「同じ悩みを持つ人に届けたい」と思っている人もいます。

商品を通してお客様が喜んだ姿を見て、価値を実感した人もいるでしょう。

会社のものづくりへの姿勢や、問題が起きたときの誠実な対応に信頼を感じている人もいます。

あるいは商品そのものだけでなく、一緒に働く人や会社の考え方に魅力を感じ、「この人たちがつくるものだから届けたい」と思っているかもしれません。

会社として伝えるべき情報は共通していても、「なぜ私はこれを伝えたいのか」は、一人ひとり違ってよいはずです。

その違いが、営業や接客をする人の個性になります。

全員が同じ言葉を話すよりも、会社が大切にする価値を共有しながら、それぞれが自分の経験や強みを通して表現する。その方が、お客様にも自然な言葉として届きます。

自己理解が、本人らしいストーリーをつくる

自分らしい営業や接客をするためには、話し方を練習する前に、自分が何を伝えたい人なのかを知る必要があります。

そこで役立つのが、コーチングや自己理解のワークショップです。

これまでの経験を振り返りながら、

「なぜ、この会社を選んだのか」

「働く中で、どのような出来事が印象に残っているのか」

「商品や会社のどの部分に、自分の価値観とのつながりを感じるのか」

「お客様に喜んでもらえたのは、どのような場面だったのか」

「自分の強みは、接客や提案のどこに表れているのか」

を整理していきます。

最初から、きれいなストーリーが出てくるとは限りません。

「家から近かったから入社した」

「紹介されて、何となく働き始めた」

「商品のことは、入社してから知った」

という人もいるでしょう。

それでも、働き続けてきた中で感じたことはあるはずです。

お客様から言われてうれしかった言葉。先輩の対応を見て、すごいと思った場面。自分なりに工夫して感謝された経験。失敗したからこそ、今は大切にしていること。

そうした小さな出来事を振り返ると、本人と会社や商品との接点が見えてきます。

それを営業トークへ無理に当てはめるのではなく、まずは「これは自分が本当に感じていることだ」と納得できる言葉にしていくことが大切です。

自己開示が、お客様との関係を変える

営業では、お客様の話を聞く力が重視されます。

ただ、相手のことを聞くだけでは、関係が深まりにくい場合もあります。自分がどのような人で、なぜこの仕事をしているのかを少し伝えることで、お客様も安心して話しやすくなることがあります。

例えば、

「私自身も、以前は同じことで悩んでいました」

「お客様からこんなお話を聞いた経験があり、この部分は特に大切にお伝えしています」

「私は、この会社のこういう対応を見て、ここで働きたいと思いました」

といった自己開示です。

もちろん、自分の話ばかりをしたり、必要以上に私生活を話したりすることではありません。お客様の悩みや検討していることに関係する範囲で、自分の経験や思いを伝えます。

すると、商品を売る人と買う人という関係だけではなく、「この人なら自分のことを分かってくれそう」というつながりが生まれます。

用意された成功談を話すよりも、本人の経験に基づいた言葉の方が、誠実さも伝わりやすくなります。

自分について話せる経験が、社員の自信にもなる

自分の経験や思いを言葉にして話すことは、お客様との関係だけでなく、社員自身にも影響します。

自己理解が進んでいない人は、自分が仕事で何を大切にしているのか、どのような価値を提供しているのかを聞かれても、すぐに答えられないことがあります。

「特別な経験はない」

「自分には、話せるようなことがない」

「営業成績が高いわけでもないから、強みとは言えない」

と思っている社員もいるでしょう。

しかし、対話を通して経験を振り返ると、本人が当たり前だと思っていた行動の中に、その人らしさが見つかります。

難しい言葉を使わず説明している。緊張しているお客様に気づいて、質問しやすい雰囲気をつくっている。購入後に困らないよう、先回りして情報を伝えている。すぐに契約へ進めず、相手が納得するまで待っている。

こうした行動も、その人がお客様へ届けている価値です。

自分の経験を話し、お客様が耳を傾けてくれたり、「あなたに相談してよかった」と言ってくれたりする。そうした体験が増えると、自分の考えや仕事に対する自信が育っていきます。

「自分には伝えられることがある」

「自分の経験が、誰かの役に立つ」

という実感は、自己肯定感や仕事への納得感にもつながります。

社員の言葉と会社のブランドをつなぐ

社員が自分らしく話せれば、何を伝えてもよいということではありません。

個人の言葉と、会社が大切にしている価値がつながっていることが重要です。

例えば、会社が「お客様が納得して選べること」を大切にしているなら、契約を急がせず、判断に必要な情報を丁寧に伝えた社員の経験は、会社のブランドを表すストーリーになります。

会社が「暮らしに寄り添うこと」を大切にしているなら、お客様の生活を聞き、予定になかった商品も含めて最適な方法を提案した経験から、会社らしさを伝えられます。

会社の理念を先に覚えさせて、自分を合わせてもらうのではありません。

社員が実際に感じたことや大切にしていることを見つけ、その中から会社の理念と重なる部分を整理する。

その重なりが見つかると、社員は「会社の言葉を話す」のではなく、「自分が本当に大切だと思っていることを、会社の価値として伝える」ことができます。

そこに、コーチングとブランディングを一緒に行う意味があります。

最初に、お客様と一番近い社員から始める

全社員で自己理解に取り組むことが理想でも、最初から大規模に実施するのが難しい企業もあると思います。

その場合は、まずお客様と直接関わる社員から始めることをおすすめします。

営業、販売、接客、カスタマーサポート、採用担当など、お客様や求職者と近い距離で関わる社員です。

お客様は、Webサイトや広告だけを見て会社を判断しているわけではありません。

担当者がどのような言葉で話したか。こちらの状況を理解しようとしてくれたか。会社や商品について、自信と納得感を持って説明していたか。

その体験から、「この会社は信頼できるか」を感じています。

つまり、お客様と一番近い社員は、会社のブランドを直接届ける存在です。

この社員たちが、自分の経験や強み、会社とのつながりを理解し、自分の言葉で話せるようになると、お客様が受け取る会社の印象も変わります。

営業トークを覚えるだけでは生まれない、その会社らしさや、その人らしさが伝わるからです。

売るための言葉から、信頼を育てる言葉へ

営業や接客の研修では、「何をどう伝えるか」を学ぶことができます。

一方、コーチングや自己理解のワークショップでは、「なぜ自分がそれを伝えたいのか」を見つけます。

どちらか一方でよいのではありません。

会社として正しく伝える内容を整えたうえで、社員一人ひとりが、自分の経験や価値観とつながる言葉にしていく。

そうすることで、営業トークは、商品を売るためだけの言葉から、お客様との信頼を育てる言葉へ変わります。

社員が「私はこの商品がよいと思っています」と言うことと、「私はこういう経験があり、この部分に本当に価値を感じています」と話すことでは、伝わり方が異なります。

本人が納得している言葉には、無理な説得力を加えなくても、その人の姿勢が表れます。

Think for Designでは、社員の強みや価値観、仕事への思いを整理し、会社や商品の価値との接点を見つけるコーチングやワークショップを行っています。

まずは、お客様と一番近い社員が、自分と会社のことを自分の言葉で話せるようになること。

そこから、社員一人ひとりの行動や言葉を通して、会社のブランドが伝わる状態をつくっていきます。

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