確認され続ける人は、自分で決めなくなる
「期待しているよ」と伝えているのに、相手が動かない。そういうとき、伝え方を変えるより先に見たほうがいいものがあります。今日は、期待が何によって伝わるのかという話です。
変わったのは、先生の見方だけだった
ピグマリオン効果という言葉があります。元になっているのは、1960年代のアメリカで行われた実験です。
小学校で知能テストをやったあと、研究者が先生に一枚のリストを渡します。この子たちはこれから伸びますよ、と。ですが実はそのリストは、テストの結果とは関係なく、くじ引きのように選ばれた子どもたちでした。
数か月後にもう一度テストをすると、リストに載っていた子どもたちの成績が、本当に上がっていたそうです。
上がる理由がどこにもありません。変わったのは、先生の見方だけでした。
逆もあります。期待されなかった側は下がる。ゴーレム効果と呼ばれています。周りがその人をどう見ているかは、良いほうにも悪いほうにも、その人の中に入っていきます。
伝わったのは、態度のほう
では、何が伝わったのか。
先生は本人に「君は伸びるよ」とは言っていないはずです。伝わったのは、態度のほうだと思います。
伸びると思っている子には、答えが出てくるまで、あと三秒待つ。間違えたときに、もう一度聞き直す。ちょっと難しい問題を、あの子ならいけるかな、と渡してみる。
ひとつひとつは、本当に小さいことです。ですが、毎日それをやられた側は、自分はできる側の人間なんだな、と思うようになります。
逆に、この子は無理だろう、と思っていると、待たなくなります。答えが出る前に、こちらが言ってしまう。難しいものは渡さない。
言葉では、頑張れ、と言っている。でも、渡している仕事のほうがそれを裏切っている。
人は、言われたことよりも、渡されたもののほうを信じます。
確認され続ける人は、自分で決めなくなる
これが、組織の中でいちばん出るところだと思っています。
この人は仕事ができる、と思っている相手には、大きい仕事を渡します。判断も任せます。任された人は、任された分だけ考えるので、実際に伸びます。
反対に、この人はまだかな、と思っていると、細かく確認します。
ここが肝心なところで、確認される側は、確認される前提で仕事をするようになります。自分で決めなくなるんですよね。どうせ最後に見てもらえるなら、途中で悩む意味がないので。これは能力の問題ではなく、置かれた状況への合理的な適応です。
そして、決めなくなった様子を見て、こちらは、やっぱりまだかな、と思ってしまう。
一周して、最初の見方が正しかったことになります。自分で作った結果を、自分で証拠にしてしまう。
ですから、育たない人がいる、という相談を受けたときに僕がまず見るのは、その人ではなく、その人に何が渡されてきたかのほうです。渡された仕事の大きさと、判断の範囲。そこに答えが出ていることが多いです。
「期待しているよ」という言葉には、あまり意味がありません。大事なのは、その言葉のあとで、何を渡しているかです。
期待だけを渡すと、プレッシャーになる
ひとつ、気をつけていることがあります。
期待は、そのままだとプレッシャーになります。君ならできる、絶対いける、と言われると、うれしいのは最初だけで、だんだん、失敗できないな、となっていきます。逃げ場がなくなるんですよね。
ですから、渡すときに、後ろも一緒に渡すようにしています。
これは任せます。うまくいかなかったら、そのときは一緒に考えます。そういう形です。
できると思っているから任せる。ただし、失敗しても終わりじゃない。この二つが揃って、初めて動きやすくなります。
片方だけだと、うまくいきません。期待だけだと重くなる。安全だけだと、任されていないのと同じになります。
「面倒な人」も、こちらが作っていることがある
もうひとつ、少し怖い話をします。
強めの言い方で連絡してくる相手に、この人は面倒だな、と思ってしまうことがあります。
そう思って対応すると、まずこちらの返事が短くなります。守りに入るので、説明が事務的になる。受け取った側は、雑に扱われた、と感じます。それでもっと強い言い方になる。こちらは、ほら、やっぱりそういう人だ、と思ってしまう。
これも一周しています。最初にこちらが決めた見方が、そのとおりの相手を作っている。
たいていの場合、強い言い方をしてくる人は、困っているだけです。困っている人として扱えば、困っている人として話してくれます。同じ相手なのに、こちらの見方ひとつで別の人になる。
採用の面接でも、同じことが起きます。書類の時点でいいな、と思った方には、いいところが出るような質問をします。うまく答えられなくても、緊張しているだけかな、と受け取る。反対に、うーん、と思った方には、確認の質問が増える。同じ答えを聞いても、引っかかるほうを拾ってしまう。
同じ人が面接官によって別の評価になるのは、半分くらいこれではないかと思っています。面接の精度を上げたいなら、質問の型より先に、書類を見た時点の第一印象をどう扱うかを決めたほうがいいと思います。
演技では効かない
最後にひとつ。これも技として使おうとすると、たぶん効きません。
思ってもいないのに、期待しているふりをする。それは態度のほうに出ます。人は、言葉より態度を見ているので。
ですから、やることは演技ではなくて、見方を変えるほうです。
とはいえ、見方を変えろ、と言われて変えられるものでもありません。現実的なのは、見方が態度に出る前に、渡すものを先に変えてしまうことだと思っています。もう一段大きい仕事を渡す。判断をひとつ委ねる。行動を先に変えると、相手の反応が変わり、こちらの見方も後からついてきます。
これは本人にも同じことが言えます。自分は人前で話すのが苦手、と思っている人は、話す機会を避けます。避けるので、うまくならない。うまくならないので、やっぱり苦手、となる。自分で自分に、同じことをやっているわけです。
思い込みは簡単には書き換わりません。ですから現実的なのは、自分をいいほうに見てくれる人を、一人だけ近くに置いておくことだと思います。自分では大したことないと思っている作業を、それすごいですね、と言ってくれる人。その一言があると、渡される仕事が変わります。渡される仕事が変われば、自分の見方も後からついてきます。
組織にできるのは、その一人を、社内に用意することだと思っています。
まとめ
人は、周りが自分をどう見ているかに沿って動きます。良いほうにも、悪いほうにも。
そしてその見方は、言葉ではなく、待つ時間と、渡す仕事の大きさで伝わります。
もし、この人はここまでかな、と思っている相手がいたら。その判断は、こちらの接し方が作ったものかもしれません。