値段で比べられるのは、値段しか渡していないから
値段で比べられるのがつらい、という相談をよく受けます。相見積もりになると、いつも一番安いところが残る。うちの強みが伝わっていない、と。今日は、その手前で何が起きているのかという話です。
人は、辻褄が合わないと決められない
認知的不協和という言葉があります。言葉は難しいのですが、中身は単純です。
自分の中に合わない考えが二つあると、気持ちが悪くなる。それで、どちらかを変えて辻褄を合わせにいく。それだけです。
分かりやすいのは、買い物のあとです。そこそこ高い買い物をしたあとに、なぜかまた口コミを読み直したことはないでしょうか。もう買っていて、返品する気もない。なのに、良い評価のところをわざわざ探して読んでいる。
けっこうな金額を払ったという事実と、本当に良かったのかなという疑い。この二つが並んでいると落ち着かないので、良い評価を集めてきて、疑いのほうを小さくしている。
面白いのは、買う前より、買ったあとのほうが熱心に読むことです。
人は、辻褄を合わせる生き物です。事実を変えられないときは、考えのほうを変えてでも合わせにいきます。
「全部同じに見える」は、かなり気持ち悪い状態
ここから、選ばれるかどうかの話につながります。
三社で見積もりを取ったとします。だいたい、どこも似たようなことが書いてあります。実績があって、丁寧で、お客さまの立場で考えます、と。
そうすると、選ぶ側は困ります。全部同じに見えるので、決める理由がない。
決めなければいけないのに、決める理由がない。これも、辻褄が合っていない状態です。かなり気持ち悪い。
そして、その気持ち悪さを、いちばん手っ取り早く消せるものがあります。値段です。
同じに見えるなら、安いほうでいい。そうやって決まります。
つまり、値段で比べられているとき、相手が値段しか見ていないわけではないのだと思います。比べる材料を、値段しか渡していないだけです。
軸を一本増やすと、戦わなくて済む
ですから、やることは、値段以外の軸を渡すことになります。
うちが向いているのはこういう方です。こういう場合は、他をおすすめします。そこまで書いてあると、比べる軸が一本増えます。軸が増えると、そこで選ばれるようになります。
断りたいことを先に書くのは、こわいと思います。仕事が減るように感じるので。
ですが、書いた瞬間に、値段の勝負から降りられます。そこで離れる方は、もともと値段で決める方です。
私たちが「戦わないブランド」と言っているのは、こういうことです。強く主張して勝つのではなく、比べられる土俵を先に変えておく。
言っていることと、やっていることの辻褄
もうひとつ、組織のほうにも同じ構造があります。
丁寧な対応を心がけています、と書いてあるサイトで、問い合わせフォームを開いたら入力項目が十個ある。地域に根ざしています、と書いてあるのに、写真が全部どこかで見たことのある素材写真。社員の顔が見える会社です、と書いてあって、社員の写真が一枚もない。
読んだ人は、どちらを信じると思いますか。
言葉のほうではありません。目に見えているほうを信じます。そして、言葉のほうを、嘘だったんだな、と処理します。
この処理が起きると、そのページに書いてある他のことまで、まとめて疑われます。一か所の矛盾が、全部を安くしてしまう。
これは社内でも同じように起きます。理念に「挑戦」と書いてあるのに、新しい提案を出すと確認が増える。人を大事にする、と書いてあるのに、評価の基準がどこにも書かれていない。
働いている側は、貼ってある言葉ではなく、実際に起きていることのほうを信じます。そして、貼ってある言葉のほうを、建前だったんだな、と処理します。
言葉と実物が合っていないと、言葉のほうが弱くなる。外でも中でも、同じことが起きています。
決めたあとを放っておかない
そして、いちばん忘れられているのが、決めたあとです。
人は、決めたあとにこそ不安になります。問い合わせを送った直後、申し込みボタンを押した直後が、いちばん揺れています。
なのに、たいていのサイトはそこで終わります。送信が完了しました、ありがとうございました、以上。
送信が終わった画面に、この後どうなるかを書いておく。何日で返事が来るのか。何を準備しておけばいいのか。過去にどんな相談が多いのか。それだけで、押したあとの不安が下がります。
ここを丁寧にやると、キャンセルが減ります。キャンセルは、他社と比べて起きるというより、決めたあとの不安を放っておかれて起きるからです。
これは、入社した人にもそのまま当てはまります。内定を出したあと、入社を決めたあとが、いちばん揺れています。そこを放っておくと、辞退や早期離職につながる。
入ってからどうなるか、最初の一か月に何をするか、誰が見てくれるのか。決めたあとに渡す材料が、そのまま定着率に出ます。
不安を作る側には回らない
最後に、使い方の線を書いておきます。
この仕組みは、人を動かすのに使えてしまいます。知らないと損します、九割の会社が間違えています。そういう言い方です。
あれも仕組みとしては同じで、不安と現状のあいだに、無理やり辻褄の合わない状態を作っている。効くには効きます。ただ、作った不安は、あとで戻ってきます。
その気持ちのまま決めた方は、届いたものを見て、思っていたのと違う、となる。クレームになるか、悪い評判になるか、どちらかです。
僕が使っていいと思っているのは、すでにその方が引っかかっていることを、言葉にするところまでです。
採用しても続かない、任せても育たない。これは、本人がもう感じていることです。それを言うのは、不安を作ったことにはなりません。
作るのか、もともとあるものを言葉にするのか。ここが線だと思っています。
まとめ
人は、自分の中の辻褄が合わないと決められません。そして決めたあとも、辻褄を合わせようとし続けます。
ですから、選ばれる側がやることは二つです。決める前に、値段以外の比べる材料を渡しておくこと。決めたあとに、選んでよかったと思える材料を置いておくこと。
どちらも、強く主張することとは違います。相手が自分で決められる状態を作る、というだけの話です。