やり直しで落ち込む若手への問い
制作の現場では、若手の出したデザインがやり直しになることは珍しくありません。「イメージと合わない」「もう一回考え直してほしい」と言われた若手は、「自分には才能がないのかもしれない」「まだデザイン力が足りない」と落ち込みます。
僕も今でも、出したデザインに良くない反応が返ってくると、気持ちのいいものではありません。若手が落ち込む気持ちはよく分かります。
ただ、「デザイン力が足りない」という曖昧な反省で振り返りが終わると、次に何を練習すればいいのかが決まらないまま、次の案件が始まってしまいます。落ち込んでいる若手には、答えを教えるよりも、自分で振り返るための問いを渡すほうがいいと考えています。
「デザイン力」を六つの要素に分ける
「デザイン力が足りない」という言葉は、非常に曖昧です。同じように通らなかったデザインでも、つまずいた原因はまるで違うことがあります。振り返るときは、次の六つの問いに分けて考えます。
- 情報を整理できていたか
- クライアントが言っていることを、正しく受け取れていたか
- 聞き取りは足りていたか
- 見る人のことを、思い描けていたか
- どう選ばれ、どう売れていくかを考えていたか
- 考えたことを形にする技術は、足りていたか
どこで引っかかったかが分かれば、練習の中身が決まります。情報の整理で引っかかった人には整理の練習を、クライアントの意図を取り違えた人には聞き方の見直しを、見る人を思い描けていなかった人には市場やお客様を調べる時間を設けます。育てる側から見れば、その人に合わせた育成の計画をここから立てられます。
作品への評価と本人の価値を分ける
若手が落ち込む理由は、もう一つあります。デザインを否定されたことを、自分自身を否定されたように感じてしまうことです。
デザインには、つくった人の感性が入ります。感性を大事にしてきた人ほど、やり直しになったときの痛みは大きくなりやすいと思います。
それでも、仕事でつくるデザインには、手を動かす前から決まっている目的があります。問い合わせを増やす、応募を集める、会社の魅力を伝える、などです。うまくいかなかったのは、その目的に対する設計のどこかがうまくいかなかったということであり、本人がダメな人間だという意味ではありません。
伝え方がきつかったり、理不尽だったりする場面もあります。言われたことを何でも受け入れればいい、という話ではありません。それでも、デザインへのフィードバックと本人の価値は、分けて扱います。振り返りの場でこれができているかどうかで、若手が次の案を出すときの気持ちは変わってくると思います。
若手に渡す振り返りの問い
「なんで自分はダメなんだろう」と考えると、若手はどんどん苦しくなります。代わりに、次の二つの問いを自分に向けてもらいます。
- 何が足りなかったんだろう
- このデザインは、そもそも誰のためにつくっていたんだろう
一つめの問いは、先ほどの六つの要素のどこかに答えが出ます。二つめの問いは、自分の好みに寄っていたデザインを、クライアントの価値を伝える方向へ引き戻してくれます。
振り返りの問いが決まっていれば、振り返りは本人ひとりでもできるようになります。先輩がつきっきりで原因を言い当てなくても、若手が自分で原因を分けて、自分で次の練習課題を選べます。指導する人が変わっても、同じ振り返りの仕組みがチームに残ります。
僕自身、デザインを出す前は今も緊張します。そのたびに立ち返るのは、「これはクライアントの価値を届けるための仕事だ」というところです。若手に渡す二つめの問いは、そこへ戻るための問いでもあります。