目標が書けないのは、やる気の問題ではない
目標シートが、毎年ほとんど埋まらないまま出てくる社員がいます。
書いてあっても、去年とほぼ同じ。数字を入れてもらっても、本人がその数字の話をすることはない。面談のたびに、もう少し具体的に、と伝えて、翌年また同じものが出てくる。
ここで意欲の問題として処理してしまうと、その人は伸びないまま据え置かれます。本当は、使っている物差しが合っていないだけということがあります。
未来から考える人と、在り方から考える人
五年後どうなっていたいですか。この問いにすぐ答えられる人がいます。この役割に就きたい、この規模を任されたい、と未来の状態が浮かぶ。そこから逆算して、三年後、今年、と落としていける。
目標管理の仕組みは、ほぼこの型を前提に作られています。ゴールを決めて、逆算して、行動する。分かりやすく、進捗も測りやすい。
もう一方に、同じ問いに詰まる人がいます。五年後は分からない。役職に就きたいわけでもない。数字を掲げても気持ちが動かない。
この人たちに何も無いわけではありません。丁寧に仕上げたい。人に迷惑をかけたくない。後輩が困っていたら手を貸したい。持っているものが、未来の一点ではなく、日々の在り方のほうに置かれているだけです。
借りてきた目標が生まれる場所
後者の人に、大きな目標を書くよう求めるとどうなるか。
紙の上には、それらしい言葉が並びます。研修で聞いた言葉、上司が言っていた言葉、同期が書いていた言葉。書いた本人が納得していないので、翌週には忘れられます。
そして年度末に、達成できていないことだけが残ります。目標が、その人を前に進める道具ではなく、できていない自分を確認させる装置になっている。
これを何年か繰り返すと、目標設定そのものへの信頼が失われます。面談で本音が出なくなるのは、たいていこのあとです。
数字の順番を入れ替える
チームに数字を渡す場面でも、同じことが起きます。
今期はこの数字を、と伝えたとき、未来から考える人はすぐ手段の話に移れます。もう一方の人は、なぜその数字なのか、で止まります。
止まっているのを見て、当事者意識が足りない、と読むのは早い。順番が逆なだけです。
お客様にもっといいものを届けたい。そのために人を増やしたい。増えた人が安心して働けるようにしたい。だからこの数字が要る。ここまで並べ直すと、同じ人が同じ数字に向かって動き出します。数字が、ゴールから手段に変わったからです。
面談で、質問を替える
目標が書けない人との面談では、問いを替えるだけで進むことがあります。
この半年で、調子よく進んだ仕事はどれでしたか。人に説明して誇れる仕事はありましたか。社内の誰の助けになりたいですか。どういう働き方の人として見られたいですか。これだけは崩したくない、という線はありますか。
五年後は答えられなくても、これらには答えが出てきます。出てきた言葉を並べると、その人が大切にしているものが見えます。そこから逆に、今期どこに置かれるといい仕事ができるかを一緒に決められます。
目的は、目標を本人に書かせることではありません。その人が力を出せる置き場所を決めることです。そう考えれば、入り口は二つあっていい。
評価制度に、二つの入り口を用意する
制度として直せることもあります。
目標シートの様式が「三年後の姿」から始まっていると、片方の型の人は最初の一行で止まります。書けないまま提出するか、借りてきた言葉で埋めるかの二択になる。
ここに「大切にしたい仕事の仕方」から入る欄を並べて置くだけで、詰まる人が減ります。どちらから書き始めてもよい、と様式のほうで示す。
もちろん、人を二種類に分けて終わりにする話ではありません。こんな未来を作りたいという絵があり、なぜそれをやりたいのかという理由がある。その二つがつながっている状態がいちばん強い。違うのは入り口だけです。
目標が出てこない人に、もっと大きな夢を、と足すのではなく、その人が入れる入り口を用意する。育てる側の仕事は、たぶんそちらだと思います。