提案書は、欲しい理由から先に置く
デザイン会社や制作会社の提案書を開くと、最初の数ページがよく似ています。会社概要、制作実績、対応できる領域、制作の進め方、体制、スケジュール、お見積り。
どれも欠かせない情報です。ただ、並べてみると、そのほとんどが同じ種類の理由でできています。
選ぶまでに要る、二つの理由
発注先を決めるまでに、相手の中では二つの理由が必要になります。
まず、欲しい理由。こうなりたい、こんな状態になったらいい、という気持ちを動かすもの。もうひとつは買っていい理由です。この会社なら大丈夫、この金額には理由がある、この人たちになら任せられる、という不安をなくすもの。
冒頭の提案書に並んでいたのは、ほぼすべて買っていい理由でした。実績も体制も工程も、発注する側の不安を減らします。けれど、この会社に頼んだらどうなるのか、という先の姿は、どこにも書かれていません。
説明を読んで頼みたくなる人は、多くありません。頼みたくなってから、説明を読みに来ます。欲しい理由が無いまま買っていい理由を積み上げると、提案は「ちゃんとした会社」として比べられ、最後は金額と納期で決まりやすくなります。
提案書の冒頭を、相手のこれからに置き換える
ここからは作例です。社員30名ほどの部品メーカーから、採用サイトのリニューアルについて相談を受けたとします。ヒアリングで、人事の担当者がこう話していました。
「応募は来るんです。でも面接で、うちが何を作っている会社なのかを説明するところから始まってしまう。」
よくある提案書なら、1ページ目は自社の紹介です。これを、相手のこれからの場面に置き換えます。
- 直す前の1ページ目:「株式会社○○のご紹介/制作実績120社」
- 直したあとの1ページ目:「面接の最初の10分を、会社の説明ではなく、応募した方の話を聞く時間にする。」
- 2ページ目:そうなるために、採用サイトで何を先に伝えるか。
- 3ページ目以降:それを実現できる理由としての、実績、進め方、体制、お見積り。
実績も体制も削っていません。欲しい理由を受け止める位置に移すと、同じ実績が「うちでもそうなれそうだ」と読まれるようになります。
欲しい理由は、ヒアリングの中にある
欲しい理由を、提案する側が作文する必要はありません。多くの場合、先方がもう口にしています。困っていること、うまくいっていないこと、本当はこうしたいこと。
拾い方に迷ったら、6つの欲求に当ててみるのもひとつです。確実性、多様性、重要感、つながり、成長、貢献。先の部品メーカーなら、応募した方が面接で自分の話を聞いてもらえたと感じる重要感と、入社後に長く働いてもらえるという確実性の二つが立ちそうです。欲求は二つまでに絞ると、提案の芯がぶれません。
担当が替わっても、同じ順番で組めるように
欲しい理由から組み立てる提案は、慣れたディレクターの頭の中だけにあることが多いものです。ほかの人が組むと、会社紹介から始まる形に戻りやすくなります。順番を手順として残しておくと、誰が組んでも同じ骨組みになります。
- ヒアリングの記録から、先方が口にした「困っていること」「本当はこうしたいこと」を、言い換えずに三つ抜き出す。
- そのうちひとつを選び、提案書の1ページ目に、相手のこれからの場面として一文で書く。
- 提案書のすべてのページに、欲しい理由なら「欲」、買っていい理由なら「安」と印をつける。
- 「安」のページが、会社、金額、進め方、担当者の四つの不安に答えているかを確かめる。
- 提出前に、1ページ目だけを社内の別の人に読んでもらい、この会社に頼むと何が変わるかを言えるか聞く。
実績を並べる力は、どの会社にもあります。その前に、相手が欲しくなる一枚を置けるかどうかで、同じ実績の意味が変わってきます。