値下げの前に、比べられる相手を選び直す
売上が落ちてきたとき、会議の机に最初に並ぶ打ち手は、たいてい値下げと機能の追加です。どちらも社内で決められて、決めた翌月から動かせます。
ただ、値下げは利益の幅をそのまま削りますし、一度下げた値段を元に戻すのは簡単ではありません。機能の追加は、開発と検証の時間を使います。どちらも、効果が出なかったときに引き返しにくい判断です。
その判断の手前に、費用のほとんどかからない確認がひとつあります。いまの良さが、初めて見る人に届いているかどうか。もうひとつは、商品が何と比べられているかです。
作った側には、届いていないことが見えない
ネピアの鼻セレブは、1996年に「ネピア モイスチャーティシュ」という名前で出た保湿ティシュが前身です。しっとりした使い心地は、使った人から好評でした。それでも広がりませんでした。
当時は保湿ティシュというもの自体が、まだ知られていなかった。ウエットティシュと取り違えた人から、濡れていないと問い合わせが来たこともあったそうです。作った側にとってのモイスチャーは良さを表す言葉でしたが、売り場で初めて見た人には、別のものに読めていました。
2004年に名前を「鼻セレブ」に変え、箱には白くてふわふわした動物の写真を入れます。日本ネーミング大賞2020の紹介では、2005年以降に取扱店舗数が急増し、売上は前身商品の10倍以上になったとされています。紹介の中で語られているのは、名前と箱の話です。
作った人は、その商品の良さを毎日見ています。見慣れているぶん、届いていないことに気づくのがいちばん遅くなる。これは担当者の力量の問題ではなく、作り手の立ち位置から来るものだと思います。
値段は、比べる相手で高くも安くもなる
2014年に発売された明治のザ・チョコレートの価格は、220円(税別)。100円前後の板チョコが並ぶ棚では、倍以上の値段です。発売当初は苦戦が伝えられました。
転機は2016年9月のリニューアルです。箱はクラフト紙風の茶色になり、中央にカカオの実が描かれました。スティック7本入りだった形は板3枚入りに、味も新しい4種類に改められています。価格帯は220円前後で据え置かれています。PRESIDENT Online(2017年)によれば、この版は登場から7か月で2,000万個を超え、当初の販売計画の2倍以上のペースで推移しました。
日清食品のカレーメシも同じ構図です。2013年の「日清カップカレーライス」は味の評価が高かった一方で、ご飯とカレーが最初から混ざっているのはカレーライスとは言えない、という声を受けました。半年後の2014年に名前をカレーメシに変え、「ルゥでもレトルトでもない『第3のカレー』」として出し直しています。日清食品の担当者によれば、2016年に調理をお湯だけに切り替えたあと、年間売上は2倍になりました。
二つとも、値段と仕様で比べられる土俵から降りています。同じ土俵にいるかぎり、勝ち方は値下げか機能の上乗せしか残りません。比べる相手を選び直すことは、価格で戦わない側に回るための、最初の判断になります。
確かめる役を、担当者に渡す
この確認を、開発した人に頼むのはおすすめしません。先に書いたとおり、作った側からは、届いていないことが見えにくいからです。
向いているのは、広報やマーケティングの担当者です。作った人と、買う人のあいだに立っていて、両方の言葉を聞ける位置にいます。担当者がこの確認を持っていれば、会議に値下げの案が出たとき、その前に確かめた記録を横に置けます。
見るところは三つに絞ります。名前だけで何がいいのかが分かるか。似た商品と並んだとき、選ぶ理由が見えるか。いま、何と比べられているか。
担当者が替わっても回るように
確認を一人の感覚に預けると、その人が別の部署へ移ったところで途切れます。手順として残すなら、こうなります。
- 対象を一品に決める。売上が落ちている商品か、これから値下げを検討する商品。
- 名前と写真だけを、社外の三人に見せる。何の商品で、どこがいいと思うかを聞き、答えは要約せずに本人の言い方で残す。
- 開発した側が考える良さを一文にして、2の記録と並べる。ずれていれば、名前と写真の見直しを先に回す。
- 売り場、または検索結果で、隣に並ぶ三品を書き出し、何で比べられているかを一語で記録する。
- 値下げと機能追加の案は、この記録を添えて会議に出す。
記録が残っていれば、次の担当者は、前回どこがずれていたかから始められます。値下げは、そのあとでも選べます。