社員の価値観と会社の理念を、どうつなげればよいのか
written by apricot
会社の理念を読んだとき、「とても良いことが書いてある」と思う。
けれど、仕事中にその言葉を思い出すことはほとんどない。
社員にとって理念がそのような存在になっている会社は、少なくないのではないでしょうか。
理念を理解してもらうために、朝礼で唱和する。研修で説明する。社内にポスターを掲示する。評価項目に理念を入れる。
こうした取り組みに意味がないわけではありません。
ただ、会社が大切にしていることを何度伝えても、社員が「自分の仕事と、どう関係するのか」を見つけられなければ、日々の行動にはつながりにくいものです。
理念を社員に浸透させるために必要なのは、会社の言葉を一方的に教えることではありません。
社員自身が大切にしていることと、会社が大切にしていること。その接点を一緒に見つけることです。
同じ会社で働いていても、大切にしていることは違う
ある人は、お客様に喜んでもらうことにやりがいを感じます。
ある人は、チームで目標を達成することを大切にしています。
また別の人は、専門性を高めること、仕事を丁寧に進めること、新しい方法に挑戦することに価値を感じています。
同じ会社で働いていても、仕事に意味を感じるポイントは一人ひとり異なります。
その違いを無視して、会社の理念だけを正解として伝えると、社員にとって理念は「会社が大切にしているもの」で止まってしまいます。
一方で、自分が大切にしていることと理念の接点が見つかると、受け止め方が変わります。
例えば、会社が「人の可能性を広げる」という理念を掲げているとします。
人の成長を支えることに喜びを感じる社員は、後輩の育成を通して理念を実現できるかもしれません。
新しい方法を考えることが好きな社員は、より使いやすいサービスを提案することで理念を表せます。
丁寧さを大切にする社員は、一人ひとりのお客様に分かりやすく説明することが、可能性を広げることにつながるかもしれません。
同じ理念でも、表し方は一つではありません。
まず、社員自身の価値観を知る
理念との接点を考える前に必要なのが、社員自身の価値観を知ることです。
価値観とは、立派な言葉を選ぶことではありません。その人が、仕事や人生の中で無意識に大切にしている判断基準です。
例えば、過去を振り返りながら次のような問いを考えます。
- 仕事で充実していたのは、どのようなときか
- 反対に、強い違和感や怒りを感じたのはどのような場面か
- これまで頑張れた仕事には、どのような共通点があるか
- どのような人を尊敬しているか
- 仕事を通して、誰にどのような影響を与えたいか
- どのような働き方だけは避けたいか
「人の役に立ちたい」という答えが出たら、さらに具体的にしていきます。
誰の役に立ちたいのか。
どのような関わり方をしたいのか。
相手がどう変わるとうれしいのか。
なぜそれを大切にしているのか。
対話を重ねることで、「信頼」「成長」「安心」「挑戦」「公正」「貢献」など、本人が大切にしている価値が見えてきます。
会社の理念も、行動が見える言葉にする
社員の価値観だけでなく、会社の理念についても掘り下げる必要があります。
例えば、「お客様を大切にする」という言葉があります。
この言葉だけでは、具体的にどのような行動を取ればよいのか、人によって解釈が変わります。
お客様の要望をすべて受け入れることなのか。
専門家として、難しいことは難しいと伝えることなのか。
早く対応することなのか。
時間をかけて話を聞くことなのか。
そこで、会社として大切にしたい行動を具体的にします。
- お客様の話を、結論を急がずに聞く
- 目の前の要望だけでなく、その背景にある課題を考える
- できないことを曖昧にせず、代替案を提案する
- 社内の都合ではなく、お客様にとって分かりやすい方法を選ぶ
理念を行動の言葉に置き換えることで、社員は自分の仕事との接点を考えやすくなります。
「一致」だけでなく「重なる部分」を見つける
社員の価値観と会社の理念が、すべて完全に一致する必要はありません。
会社と個人は別の存在です。大切にしていることが違う部分もあって当然です。
大切なのは、重なる部分を見つけることです。
例えば、会社が「挑戦」を大切にしていても、社員自身は「安心」を大切にしているかもしれません。
一見すると反対の価値観に見えます。
しかし、安心して意見を言える環境があるからこそ、新しいことに挑戦できるとも考えられます。その社員は、挑戦するメンバーが安心して動けるように、計画を整えたり、リスクを確認したりする役割を担えるかもしれません。
会社と同じ言葉を選ぶことが目的ではありません。
それぞれの価値観を持つ社員が、自分らしい方法で会社の理念に貢献できる状態をつくることが大切です。
理念を「自分の仕事の意味」に変える
社員の価値観と会社の理念の接点が見つかったら、それを現在の仕事に落とし込みます。
次のような順番で考えると整理しやすくなります。
1.私は仕事で何を大切にしたいのか
2.会社は何を大切にしているのか
3.重なっている部分はどこか
4.その価値を、今の役割でどのような行動にできるか
5.誰に、どのような良い影響を与えられるか
例えば、「相手が安心できるように支えたい」という価値観を持つ社員が、会社の「信頼を積み重ねる」という理念との接点を考えたとします。
その社員にとって理念を表す行動は、
- 分からないことをそのままにせず確認する
- 進捗や問題を早めに共有する
- 相手が迷わないように、資料を整理する
- 約束した期限を守る
- 困っているメンバーに声をかける
といったものになるかもしれません。
理念が、自分の価値観と日々の仕事をつなぐ言葉になれば、会社から言われたから実践するものではなくなります。
理念との接点が、主体性を生む
社員が自分の価値観を理解し、仕事とのつながりを見つけると、「この仕事を何のために行うのか」が見えやすくなります。
指示された業務を終わらせるだけではなく、
「お客様に安心してもらうために、説明資料を改善しよう」
「チームで信頼を積み重ねるために、早めに共有しよう」
「人の可能性を広げる会社だから、後輩が挑戦できるように支えよう」
と、自分なりに行動を考えられるようになります。
理念が主体性につながるのは、理念を理解したからだけではありません。
自分が大切にしたいことと、今の仕事の意味がつながったからです。
会社側も、理念に沿った環境をつくる
社員に理念を体現してもらいたいのであれば、会社側も理念と一致する環境をつくる必要があります。
「挑戦」を掲げながら、失敗を強く責める。
「信頼」を掲げながら、情報を一部の人だけで抱える。
「人を大切にする」と言いながら、過度な残業を放置する。
「対話」を掲げながら、社員の意見を聞かずに決める。
このような矛盾があると、社員は理念を会社の本音として受け取れなくなります。
理念と社員の価値観をつなげる取り組みは、社員に会社へ合わせてもらうためのものではありません。
理念に照らして、会社の制度や管理職の関わり方、仕事の進め方を見直す機会でもあります。
価値観の違いが、会社らしさを豊かにする
理念浸透というと、全員が同じ考え方になることを目指しているように聞こえることがあります。
しかし、会社が本当に必要としているのは、同じ人を増やすことではありません。
異なる価値観や強みを持つ社員が、共通する方向を見ながら、それぞれの役割を果たすことです。
誰かはお客様の声を丁寧に聞く。
誰かは新しいアイデアを出す。
誰かはリスクを確認する。
誰かはチームが協力できるように調整する。
表れる行動は違っても、その先に会社の理念がある。
その状態になったとき、理念は社員を縛る言葉ではなく、多様な社員の力を一つの方向につなぐ言葉になります。
個人の価値観と会社の理念をつなぐ対話を
Think for Designでは、社員一人ひとりの価値観や原動力を整理し、会社の理念や現在の仕事との接点を見つけるコーチング・ワークショップを実施しています。
理念を覚えてもらうことではなく、社員が「自分はこの仕事を通して、どのように理念を表したいのか」を考えられることを大切にしています。
理念が社員の行動につながらない、理念研修が一時的なものになっている、個人の思いと組織の方向性を結びつけたい企業様は、ぜひ一度ご相談ください。