社員の強みを生かすことは、得意な仕事を任せるだけではない
written by apricot
「資料をまとめるのが上手だから、今回もお願いしよう」
「人当たりがいいから、新人のフォローを任せよう」
「責任感が強いから、この案件も任せられる」
社員の強みを見つけ、得意な仕事を任せることは、人材育成において大切なことです。
本人も、自分の力を認めてもらい、頼りにされることにやりがいを感じるでしょう。
一方で、得意だからという理由で同じ仕事を任せ続けた結果、その人に負担が偏ってしまうこともあります。
資料作成が得意な人に、すべての資料作成が集まる。
人の気持ちに気づける人に、職場の相談やフォローが集中する。
責任感の強い人が、周囲の遅れまで引き受けてしまう。
強みを生かしていたはずが、いつの間にか「その人ならやってくれる」という依存に変わってしまうのです。
私は、社員の強みを生かすことは、単に得意な仕事を任せることではないと考えています。
その強みがどのような行動として表れるのか。どんな環境なら良い方向に発揮されるのか。本人はその力を今後どのように生かしたいのか。
そこまで理解したうえで、仕事や役割を設計することが大切です。
強みを「性格を表す言葉」だけで終わらせない
社員の強みを挙げるとき、
「コミュニケーション力がある」
「優しい」
「責任感が強い」
「真面目」
「リーダーシップがある」
といった言葉がよく使われます。
もちろん、どれも本人の良さを表しています。
ただし、このままでは、その強みが仕事の中でどのように発揮されているのかが分かりません。
例えば、「コミュニケーション力がある」と評価されている人でも、具体的な行動はそれぞれ異なります。
- 初対面の人とも自然に関係を築ける
- 相手の理解度に合わせて説明を変えられる
- 会議で出た意見を整理し、共通点を見つけられる
- 話しにくそうな人に気づき、声をかけられる
- 対立している人の間に入り、双方の話を聞ける
同じコミュニケーション力でも、接客、教育、調整、ファシリテーションなど、生かせる場面は異なります。
「責任感が強い」という強みも、
- 任された仕事を期限までに完了する
- ミスが起きないよう、事前に確認する
- 問題が起きたときに放置せず対応する
- チーム全体の進捗を見て、遅れを調整する
というように、具体的な行動へ分けられます。
社員の強みを役割につなげるには、抽象的な性格の言葉ではなく、「その人は実際に何をしているのか」まで見ていく必要があります。
本人にとっての「当たり前」に強みが隠れている
強みについて尋ねても、「自分には特にありません」と答える人がいます。
これは、本当に強みがないからではありません。
本人にとって自然にできることは、苦労して身につけた感覚が少ないため、特別な能力だと気づきにくいのです。
コーチングの中で仕事の経験を聞いていると、
「新人が分からなそうだったので、説明資料をつくりました」
「このままでは予定に遅れそうだったので、タスクを整理しました」
「お客様が不安そうだったので、先に今後の流れを説明しました」
と、本人が何げなく話すことがあります。
そこで「なぜ、その必要があることに気づいたのですか」「どのような工夫をしたのですか」と聞いていくと、その人らしい考え方や行動が見えてきます。
相手の立場を想像できる。
複雑な情報を整理できる。
先の状況を予測して準備できる。
人が困っている状態をそのままにできない。
本人は「普通のことをしただけ」と考えていても、周囲から見ると、それによって仕事が進みやすくなったり、不安が減ったりしています。
私は、強みを見つけるとき、目立つ成果だけを見るのではなく、その人が日常的に繰り返している小さな行動を大切にしています。
同じ強みでも、環境によって発揮のされ方は変わる
強みは、本人が持っていれば、どのような職場でも同じように発揮できるわけではありません。
仕事内容、人間関係、裁量、仕事量、上司の関わり方、評価制度などによって、強みの表れ方は変わります。
例えば、人の気持ちに気づきやすい人は、お客様の不安を察したり、メンバーへ声をかけたりできます。
一方で、周囲の感情に反応しすぎると、自分の仕事に集中できなくなったり、必要以上に気をつかって疲れたりすることがあります。
計画性がある人は、スケジュールを立て、抜け漏れを防ぐことができます。
しかし、急な変更が多く、方針が頻繁に変わる環境では、思うように力を発揮できず、ストレスを抱えるかもしれません。
責任感の強い人は、仕事を最後までやり遂げます。
ただし、役割分担が曖昧なチームでは、誰も対応していない仕事に気づくたびに、自分で抱え込んでしまう可能性があります。
このように、強みと弱みは別々のものではなく、同じ特徴の表と裏であることがあります。
大切なのは、「この人は責任感が強いから任せれば大丈夫」と考えることではありません。
どのような条件であれば強みとして発揮され、どのような状況では負担や弱みにつながるのかを理解することです。
強みを生かすことと、負担を偏らせることは違う
仕事ができる社員ほど、業務が集まりやすくなります。
本人も期待に応えようとして、頼まれた仕事を引き受け続けることがあります。
上司から見ると順調に力を発揮しているように見えても、本人の中では、
「得意だけれど、もう少し別の仕事にも挑戦したい」
「人のフォローばかりで、自分の業務が進まない」
「いつも調整役になることに疲れてきた」
「断ると期待を裏切るようで言い出せない」
と感じているかもしれません。
得意なことと、続けたいことは同じとは限りません。
できるから引き受けているだけで、本人が今後も伸ばしたい力ではないこともあります。
そのため、役割を考えるときには、
- 本人が自然にできること
- 周囲から期待されていること
- 本人が今後伸ばしたいこと
- 組織が必要としていること
を分けて確認する必要があります。
強みを理由に役割を固定するのではなく、本人がその強みをどのように生かしていきたいのかを話し合うことが大切です。
強みを役割設計につなげる4つの視点
社員の強みを実際の仕事に生かすためには、次の4つの視点で整理すると考えやすくなります。
1.どのような行動で成果や貢献につながったのか
まずは、強みを具体的な行動として捉えます。
「調整力がある」で終わらせず、
「会議の前に関係者へ個別に意見を聞き、認識の違いを整理していた」
というところまで具体化します。
さらに、その行動によって何が変わったのかを確認します。
会議が進みやすくなった。
意見を言いにくかった人も発言できた。
手戻りが減った。
関係者が納得して行動できた。
行動と周囲への影響が分かると、その強みがどのような仕事で役立つのかを考えやすくなります。
2.強みを発揮できた条件を確認する
次に、その強みを発揮できたときの環境を振り返ります。
一人で考える時間があったのか。
信頼できるメンバーと一緒だったのか。
目的や役割が明確だったのか。
ある程度の裁量があったのか。
上司からフィードバックをもらえたのか。
強みだけではなく、強みが発揮された条件まで理解することが大切です。
同じ業務を任せても、必要な情報が与えられなかったり、判断する権限がなかったりすれば、本人は力を発揮できません。
3.強みが過剰に出たときのサインを知る
強みが良い方向に発揮されているときと、過剰になっているときの違いも整理します。
例えば、周囲を支える力がある人なら、
良い状態では、必要な人に声をかけ、相手が自分で進められるように支援できます。
一方、過剰になると、相手が担うべき仕事まで引き取り、自分が疲弊してしまいます。
計画力がある人なら、
良い状態では、全体の見通しをつくり、メンバーが動きやすい状態にできます。
過剰になると、予定通りに進めることにこだわり、変更への対応が難しくなるかもしれません。
本人と上司が過剰に出たときのサインを共有しておくと、負担が大きくなる前に役割や仕事量を見直せます。
4.現在の業務だけでなく、今後の役割につなげる
強みは、今できる仕事を繰り返すためだけに使うものではありません。
現在の強みを生かしながら、新しい役割へ広げることもできます。
例えば、分かりやすく説明する力がある人なら、
- 新人教育を担当する
- マニュアルを改善する
- 顧客向けの説明資料をつくる
- 社内研修の企画に参加する
といった役割が考えられます。
人の特徴を見ながら関わり方を変えられる人なら、
- 1on1やメンバー支援
- チーム内の役割調整
- 採用面接や入社後のフォロー
- プロジェクトの進行支援
などにも強みを広げられる可能性があります。
強みを役割設計につなげることで、本人の成長と組織への貢献を両立しやすくなります。
強みを生かすために、上司が確認したいこと
上司が社員の強みを理解するために、必ずしも診断ツールを使う必要はありません。
日常の1on1でも、次のような質問から強みを見つけられます。
「最近、仕事がうまく進んだと感じたのはどんなとき?」
「そのとき、どんな工夫をしていた?」
「周囲から、よく頼まれることはある?」
「自分では普通だと思うけれど、周りから褒められることは?」
「今の仕事の中で、もう少し増やしたい業務はある?」
「得意だけれど、負担になっていることはある?」
「どんな環境だと、自分の力を発揮しやすい?」
ここで大切なのは、上司が社員の強みを決めつけないことです。
「あなたは人のサポートが得意だから、これからもフォロー役をお願いしたい」と結論づけるのではなく、
「周囲を支える力を、今後どのように生かしてみたい?」と本人に確認します。
本人が望む方向と組織が求める役割の接点を、一緒に探すことが必要です。
強みが評価される仕組みも必要になる
社員が強みを発揮していても、その行動が評価されなければ、続けることが難しくなる場合があります。
例えば、チームの情報を整理したり、新人を支えたり、職場の関係を調整したりする行動は、売上や処理件数のように数値では見えにくいものです。
本人の働きによってチームが円滑に動いていても、「本来の業務ではない」と扱われれば、貢献している社員ほど報われない状態になります。
強みを生かす役割を任せるのであれば、その役割がどのような価値を生んでいるのかを、組織として認識する必要があります。
- 何を期待する役割なのか
- どこまで本人が担うのか
- どのような状態を成果とするのか
- 本人の本来業務とのバランスをどう取るのか
- その貢献をどのように評価するのか
ここまで整理して初めて、「得意だからお願いする仕事」ではなく、正式な役割として強みを生かせるようになります。
強みを生かすことは、その人らしい価値を組織に広げること
社員の強みを生かす目的は、本人の満足度を高めることだけではありません。
一人ひとりが自分の力を理解し、それぞれの役割で発揮できるようになると、組織の中に多様な貢献が生まれます。
お客様の不安を丁寧に受け止める人。
複雑な情報を分かりやすく伝える人。
新しいアイデアを形にする人。
チームが進みやすいように仕組みを整える人。
周囲の成長を支える人。
こうした日々の行動を通して、会社が大切にしている価値が顧客や社員へ届けられます。
会社が「お客様に寄り添うこと」を大切にしているなら、その理念は、社員それぞれの強みを通して異なる行動で表現されます。
相手の話を丁寧に聞く人もいれば、分かりやすい資料をつくる人もいるでしょう。利用後の不安を予測し、先回りして案内する人もいるかもしれません。
全員が同じ行動をする必要はありません。
一人ひとりが自分の強みを使いながら、会社が大切にする価値を届けること。その積み重ねが、組織らしさやブランドを内側から育てていきます。
社員の強みを生かすとは、得意な仕事を繰り返し任せることではありません。
本人が自然に行っていることを具体的な行動として捉え、力を発揮できる条件を整え、本人が望む成長と組織に必要な役割をつなげていくことです。
Think for Designでは、社員一人ひとりの価値観や才能を言葉にし、それを現在の仕事や今後の役割にどう生かすかを考えるコーチングやワークショップを行っています。
社員の強みを組織の成長や会社のブランドにつなげたい企業様は、ぜひ一度ご相談ください。