人手不足倒産が過去最多を更新している今、見直したいこと。
帝国データバンクの調査によると、2025年度の「人手不足倒産」は441件となり、3年連続で過去最多を更新しました。
そのうち、従業員や経営幹部などの退職が原因となった「従業員退職型」の倒産は118件。年度として初めて100件を超え、こちらも過去最多となっています。
さらに、2026年上半期の人手不足倒産は227件に達し、上半期として過去最多を更新しました。
人を採用できないことだけでなく、今いる社員の退職によって事業を続けることが難しくなる会社も現実にあります。
私たちThink for Designが拠点を置く長野県でも、2026年度に正社員の採用予定がある企業は63.9%に上っています。採用意欲が高まる一方、中小企業では、大企業との賃金格差による応募の少なさや、既存社員との処遇調整などの課題が続いています。
多くの企業が人を必要としている中で、
社員が辞める
→求人を出す
→なかなか採用できない
→残った社員の負担が増える
→さらに退職が起こる
という循環に入れば、事業そのものにも影響します。
辞めた人を補充する採用だけでなく、今働いている社員がどのような状態にあるかを、日頃から知ることが重要になっています。
退職の意思は、突然生まれるとは限らない
社員が退職を決める理由は一つではありません。
給与、勤務時間、人間関係、仕事内容、評価、将来への不安、家庭の事情など、いくつもの要因が重なっていることがあります。
最初は小さな違和感だったものが、相談できないまま積み重なり、「この会社では変えられない」という諦めに変わることもあります。
たとえば、本人は別の業務に関心を持っていたけれど、会社には伝えていなかった。
今の仕事が嫌なわけではないものの、このまま同じ仕事を続ける未来しか見えなかった。
家庭の事情で働き方を変えたかったけれど、迷惑をかけると思い、相談できなかった。
会社側が早い段階でその状態を知っていれば、すべての希望をかなえられなくても、役割や働き方を一緒に考えられたかもしれません。
しかし、退職の意思が固まってから初めて話を聞こうとしても、本人はすでに別の選択へ進んでいる場合があります。
「最近どう?」だけでは、現在地が見えない
定期的に1on1を行っていても、
「最近どう?」「何か困っていることはある?」
「特に大丈夫です!」
というやり取りだけで終わってしまうことがあります。
もちろん社員が何も話さないからといって、悩みや希望がないとは限りません。
何を話せばよいか分からない。
その場でうまく言葉にできない。
話した内容が評価に影響しないか不安。
相談しても実現しないと思っている。
このような理由から、「大丈夫」と答えている可能性もあります。
1on1では、退職を考えているかどうかを直接確認する前に、仕事や生活の中で何が変化しているかを具体的に聞くことが大切です。
社員の現在地を知るための質問
社員の状態を知るためには、困っていることだけでなく、その人が力を発揮しやすい場面や、これから望んでいる状態についても聞いていきます。
最初から明確な目標や答えを求める必要はありません。本人が話しやすいところから少しずつ整理することが大切です。
今の仕事について
- 最近、仕事で負担になっていることはありますか
- 以前より、やりにくくなったと感じることはありますか
- 今の業務で、減らしたいことや見直したいことはありますか
- もう少しサポートがあると、進めやすくなる仕事はありますか
負担や働きにくさなど、マイナスに見えることは聞きにくいかもしれません。しかし、困っていることも話せる関係をつくることは、信頼につながります。
また、苦手なことや負担を感じる場面の反対側には、その人の強みが隠れていることがあります。
たとえば、急な変更に強い負担を感じる人は、事前に計画を立て、正確に進めることが得意なのかもしれません。一人で抱えることがつらい人は、周囲と相談しながら進める環境で力を発揮できる可能性があります。
「何が苦手なのか」で終わらず、どのような環境なら働きやすいのか、どのような力を持っているのかまで一緒に見つけることが大切です。
これからについて
- もう少し経験してみたいことはありますか
- 今の会社で、どのように成長していきたいですか
- これまでの経験や得意なことの中で、まだ仕事に生かせていないものはありますか
- 半年後、今よりどのような状態になっていたいですか
将来について尋ねても、すぐに明確な目標が出てくるとは限りません。
その場合は、「どの仕事をしたいですか」と具体的な答えを求める前に、本人が望んでいる抽象的なイメージから聞いてみます。
- 今より、どのような気持ちで働けていたらよいですか
- 仕事がもう少し楽しくなるとしたら、何が変わっていると思いますか
- 安心して働けているとしたら、どのような状態ですか
- 半年後、どのような気持ちで一日を終えられたらよいですか
「落ち着いて働きたい」「自信を持ちたい」「周りの役に立っていると感じたい」といった気持ちが出てくると、そこから必要な経験や役割を具体的に考えやすくなります。
最初から立派なキャリア目標を求めず、どのような気持ちで過ごしたいか、どのような状態になりたいかから一緒に整理していきます。
働き方や生活について
- 今の働き方で、変えたいと感じていることはありますか
- 仕事と生活のバランスは、このままでも続けられそうですか
- 話せる範囲で、仕事以外に大切にしたいことはありますか
- 今後、働き方に影響しそうな変化はありますか
仕事以外のことを聞くときは、家庭や健康について詳しく話してもらうことが目的ではありません。
「お子さんは何歳ですか」「ご家族に何かありましたか」と個人的な事情へ踏み込む前に、働き方に関する事実から確認します。
たとえば、
- 今の勤務時間を続けることに難しさはありますか
- 残業や休日出勤について、調整が必要なことはありますか
- 今後、勤務時間や働く場所に変更の希望はありますか
- 会社に事前に伝えておきたいことはありますか
といった聞き方です。
事実を基準に尋ねることで、本人は自分が話せる範囲を選びやすくなります。
家庭の事情や健康状態など、本人が話したくないことまで聞き出す必要はありません。会社として働き方を考えるために必要な範囲を、本人の意思を尊重しながら確認します。
上司に話しにくいこともある
1on1は、上司と社員が仕事の進め方や役割を話し合う大切な場です。
一方で、上司が評価や配置を決める立場でもあるため、社員がすべてを率直に話せるとは限りません。
今の仕事が合っていないと感じている。
上司との関係に悩んでいる。
転職するか迷っている。
仕事以外の事情が働き方に影響している。
このような内容は、まず社外の面談者と整理してから、上司に何をどのように伝えるかを考えたほうがよい場合があります。
外部面談は、上司に代わって社員の本音を聞き出し、会社へ報告するためのものではありません。
本人が自分の現在地を理解し、会社と話し合いたいことを整理する場です。その内容をもとに、社内の1on1で具体的な役割や働き方、必要な支援を話し合います。
Think for Designでは、社員一人ひとりがこれまでの経験や現在の状態を整理し、今の仕事や今後の役割との接点を見つける外部キャリア面談を行っています。
本人が共有に同意した内容や、個人を特定しない組織の共通傾向を整理し、業務、役割、上司との関わり方など、会社側で見直せることへつなげます。
退職防止の制度を増やす前に、社員が「辞める」と決めるより前から話せる関係があるか。
まずは、現在の面談や1on1で何を聞き、その後どのように対応しているかを見直してみてはいかがでしょうか。