企業は、コーチングをどのように取り入れているのか
コーチングという言葉を聞くと、経営者や管理職が一対一で受ける「エグゼクティブコーチング」を思い浮かべる方も多いかもしれません。
しかし現在、企業におけるコーチングの活用範囲は、それだけではありません。
管理職のマネジメント力を高めるために取り入れる企業もあれば、社員のキャリア自律を支えるために活用する企業もあります。1on1の質を高める、部門間の対話を増やす、次世代リーダーを育てるなど、その目的もさまざまです。
共通しているのは、「上司が答えを与え、社員を動かす」という関係だけでは、変化の速い時代に対応しにくくなっていることです。
現場で起きていることを最もよく知っているのは、実際にその仕事を担当している社員です。その社員が自分で考え、意見を伝え、周囲と協力しながら動ける組織をつくるために、コーチングを取り入れる企業が増えています。
企業におけるコーチングは、悩み相談だけではない
企業向けコーチングには、大きく分けると二つの活用方法があります。
一つは、外部のコーチが経営者や管理職、社員と一対一で対話する方法です。
普段は会社の中で言いにくいことも、評価や人事に直接関わらない第三者になら話せることがあります。自分の強みや今後のキャリア、現在の仕事で感じている違和感を整理し、これからの行動を決めるために活用されます。
もう一つは、管理職や社員がコーチングの考え方を学び、社内のコミュニケーションに生かす方法です。
上司がすぐに答えを教えるのではなく、
「あなたはどう考えている?」
「何があれば進められそう?」
「これまで、うまくできたときは何が違った?」
と問いかけ、本人が考える時間をつくります。
企業が目指しているのは、何でも社員の自由に任せることではありません。会社の目標や役割を共有したうえで、そこへ向かう方法を一緒に考えられる関係をつくることです。
Microsoftが管理職に求める「Model, Coach, Care」
Microsoftでは、管理職に求める考え方として「Model, Coach, Care」を掲げています。
管理職自身が模範を示す「Model」、社員が力を発揮できるよう支援する「Coach」、一人ひとりを理解し大切にする「Care」です。
ここでの管理職は、答えを持っていて、部下に指示する人ではありません。話を聞き、可能性を引き出し、社員が成果を上げられる環境をつくる役割を担います。
Microsoftは企業文化の中心に「成長マインドセット」を置いています。現在の能力だけで人を判断するのではなく、人は学び、挑戦し、失敗から振り返ることで成長できるという考え方です。
この考えを理念として掲げるだけでなく、管理職の行動にまで落とし込む方法として、コーチングが使われています。Microsoft「How to Lead by Listening」、Microsoftの企業文化
パナソニック コネクトは、部下主体の1on1を実施
パナソニック コネクトでは、原則として2週間に1回以上、30分程度の1on1を推奨しています。
特徴的なのは、上司が業務を確認するための「面談」ではなく、部下を主体とした「対話」として位置づけていることです。
話す内容も、業務課題や目標の進捗だけではありません。将来のキャリアや、ときにはプライベートの課題まで含めて、幅広くコミュニケーションを取ります。
社員がどのような状態にあり、何を目指し、どのようなことで困っているのかを上司が多角的に理解する。そのうえで、本人に合った関わり方や成長の機会を考えます。
こうした1on1がコミュニケーションの活性化だけでなく、業務パフォーマンスや従業員エンゲージメントにもつながるとしています。パナソニック コネクト「健康経営の重点取り組み」
ただ1on1の予定を入れるだけでは、コーチングにはなりません。
上司が話す時間ばかりになったり、進捗確認と指示で終わったりすれば、通常の業務面談と変わらなくなります。社員が安心して考えを話せること、上司がすぐに正解を与えずに聞くこと、対話で見つかった内容を役割や仕事へ反映することが必要です。
クラスメソッドは「社内でコーチングできる人」を育成
コーチングを外部サービスとして利用するだけでなく、社内に広げようとしている企業もあります。
クラスメソッド株式会社では、事業拡大とリモートワークの進展によって、社員同士のコミュニケーション不足が課題になっていました。また、知識や方法を教えるティーチング中心の育成にも限界を感じていたといいます。
そこで2021年に、社内コミュニケーションの活性化と、自律的に働く社員の育成を目的とした社内コーチングプロジェクトを立ち上げました。オンラインのコーチング講座を使いながら、社内コーチの育成を進めています。Udemy Business「クラスメソッド株式会社 導入事例」
この取り組みの重要なところは、一部の経営者や管理職だけがコーチングを受けて終わらないことです。
社内で対話できる人が増えれば、「困ったら上司の指示を待つ」のではなく、社員同士で問いかけ、考え、解決方法を見つける関係をつくれます。
外部のコーチに頼り続けるのではなく、いずれは組織の中で対話と成長が循環する状態を目指す。企業がコーチングを導入するうえで、とても参考になる考え方です。
企業が得られるのは「社員の気持ちが整うこと」だけではない
コーチングの成果は、面談後に社員の表情が明るくなったことだけでは測れません。
自分の役割を理解した社員が、必要な知識を自ら学ぶようになる。困っていることを早い段階で相談する。現場で感じている課題を、改善案とともに提案する。管理職が部下の得意なことを把握し、仕事の任せ方を変える。
このように、実際の行動や仕事の進め方へつながることが重要です。
コーチングには、社員の考えを整理するだけでなく、会社にとってもメリットは大きいものです。
- 社員の強みや希望を、役割設計に生かせる
- モチベーション低下の背景を早めに把握できる
- 管理職が細かく指示し続ける負担を減らせる
- 社員から相談や業務改善の提案が出やすくなる
- 部署や立場を越えた対話を増やせる
- 次世代の管理職やリーダーを育成できる
ただし、コーチングだけで、業務量や制度、評価、人間関係の問題が解決するわけではありません。
対話によって見えた課題を会社が受け取り、必要に応じて仕事の進め方や制度を変えていくことが必要です。
人材開発の専門機関CIPDも、コーチングは万能ではなく、本人や組織の課題に適した方法かを確認し、ほかの施策と使い分けながら効果を評価する必要があるとしています。CIPD「Coaching and mentoring」
大企業の制度を、そのまま真似する必要はない
Microsoftやパナソニックのような大企業と同じ規模の制度を、中小企業が用意する必要はありません。
むしろ、社員数が多くない会社だからこそ、一人の考えや行動がチームへ与える影響は大きくなります。
最初から全社員に継続的な個別コーチングを実施しなくても、少人数のワークショップから始める、管理職の1on1を見直す、希望する社員へ数回の個別面談を行う、といった取り入れ方ができます。
大切なのは、「コーチングを導入すること」を目的にしないことです。
社員の主体性を高めたいのか。
若手が自分のキャリアを描けるようにしたいのか。
管理職の負担を減らしたいのか。
部署間のコミュニケーションを改善したいのか。
まず会社が抱えている課題を明確にし、その課題に合わせて対象者や実施方法を設計する必要があります。
Think for Designは、コーチングとブランディングをつなげる
Think for Designの特徴は、社員の自己理解を深めるコーチングと、会社らしい価値を明確にするブランディングを、一つの流れとして支援することです。
一般的に、コーチングとブランディングは別々の施策として扱われます。
コーチングでは、社員の悩みやキャリア、目標について対話する。ブランディングでは、会社の理念や強みを整理し、Webサイトや採用広報などで発信する。それぞれに意味がありますが、両者がつながっていなければ、社員の成長と会社のブランドが別々に進んでしまいます。
例えば、社員がコーチングによって自分の強みや働く目的を理解しても、それが会社の中でどのような役割につながるのかが分からなければ、個人の気づきで終わってしまいます。
反対に、会社が魅力的な理念やブランドメッセージをつくっても、社員が「自分の仕事と何が関係しているのか」を理解できなければ、言葉を覚えるだけになってしまいます。
だからこそ、まずコーチングを通して、社員一人ひとりの経験や価値観、強み、仕事への思いを言葉にします。
また、社員との対話から見つかった価値を、会社の理念やブランドメッセージとして整理します。さらに、採用サイトや求人票、Webサイト、会社案内、SNSなどへ反映し、社内で感じられている会社像と、社外へ発信する会社像を一致させます。
コーチングで社員の内側にある思いを見つけ、ブランディングで会社の価値とつなぎ、デザインで伝わる形にする。
この流れがあることで、コーチングは個人の気づきだけで終わらず、社員の役割や行動、組織文化の変化につながります。そして、ブランディングも外側だけを整えるものではなく、社員の実感を伴ったものになります。
社員が自分らしい方法で会社の価値を表現し、その行動を通してお客様や求職者が「この会社らしさ」を感じる。さらに、その反応が社員のやりがいや会社への誇りにつながっていく。
Think for Designは、コーチングとブランディングをつなげることで、人の成長と会社のブランドが一緒に育っていく状態をつくります。