退職理由として語られる「条件」は、本当の理由とは限らない
キャリア相談を受けていると、転職を考えた理由としてよく挙がるものがあります。
「業務内容が自分に合わない」
「残業が多く、このまま続けるのが不安」
「収入が仕事に見合っていない」
どれも、転職を考える十分な理由です。実際に、業務量や待遇を改善しなければならない職場もあります。
ただ、お話を聞いていくと、それだけでは説明しきれないことがあります。
残業時間そのものよりも、職場の人間関係にやりづらさがあり、一日をとても長く感じている。業務内容が嫌というより、何のためにやっている仕事なのか、自分の中で意味を見つけられていない。収入への不満の奥に、どれだけ頑張っても認められない寂しさがある。
本人が最初に話していた理由と、対話の中で見えてくる苦しさの中心が、少し違っていることがあるのです。
「残業が多い」だけでは説明できないこと
同じ月20時間の残業でも、その受け止め方は人によって違います。
自分の意見を聞いてもらえたり、仕事を通して成長している実感があったり、困ったときに助け合える仲間がいたりすると、多少忙しい時期があっても、前向きに取り組めることがあります。
一方で、職場に安心して話せる人がおらず、自分の仕事が何につながっているのかも分からない状態では、定時までの時間さえ長く感じることがあります。
もちろん、長時間労働を「やりがいがあれば耐えられる」と考えるのは違います。心身に負担のかかる働き方や、生活を圧迫する労働条件は、組織として見直す必要があります。
ただ、勤務時間だけを短くすれば、すべての問題が解決するとも限りません。
時間の長さとともに、その時間をどのような気持ちで過ごしているのかを見る必要があります。
業務内容への不満の奥に「やる理由がない」が隠れている
「この仕事が向いていないと思います」
そう話していた方に、仕事内容のどこがつらいのかを詳しく聞いてみると、業務そのものが苦手なのではなく、自分がその仕事を担当する理由を感じられていないことがあります。
誰の役に立っているのかが見えない。
自分の強みが使われている感覚がない。
何年続けても、どのように成長できるのか分からない。
工夫しても反応がなく、ただ作業をこなしているように感じる。
この状態では、同じ業務の繰り返しが「意味のない時間」のように思えてしまいます。
反対に、自分の仕事によって誰かが助かっていることや、身につけたい力につながっていることが分かると、業務の見え方が変わることもあります。
例えば、単なる資料作成だと思っていた仕事が、「チームの認識を揃え、周囲が動きやすい状態をつくる」という自分の役割だと分かる。問い合わせ対応を繰り返す仕事が、「相手の不安を整理し、安心して次の行動へ進めるようにする」という自分の強みとつながる。
仕事内容が大きく変わらなくても、自分の中で仕事をする理由が見つかると、向き合い方は変わります。
収入への不満に、評価への違和感が重なっていることもある
収入は生活に直結するため、軽く扱うことはできません。仕事の内容や責任に対して、適切な報酬が支払われているかは重要です。
ただ、収入への不満を丁寧に聞くと、金額だけが問題ではないこともあります。
「これだけやっているのに、評価されていない気がする」
「仕事を任されるばかりで、感謝も説明もない」
「何をすれば昇給するのかが分からない」
「周囲より負担が大きいのに、同じように扱われている」
このような不公平感や、努力を見てもらえていない感覚が、収入への不満をさらに大きくしている場合があります。
一方で、仕事内容に納得できていて、人間関係も良く、成長や貢献を感じられていると、収入を「今すぐ辞めなければならないほどの問題」とは捉えていない人もいます。
だからこそ、企業側が「給与を上げれば離職を防げる」と考えるだけでは、根本的な解決にならない可能性があります。
本人が何に報われていないと感じているのかまで、確認する必要があります。
人は、説明しやすい理由から話す
業務時間や給与、仕事内容は、数字や事実として説明しやすいものです。
それに対して、
「この職場に自分の居場所がない気がする」
「期待されていないように感じる」
「何のために頑張っているのか分からない」
「周囲に気を遣い続けて疲れている」
「本当は成長したいのに、その機会がない」
といった内側の違和感は、本人にとっても言葉にしにくいものです。
「こんなことでつらいと思う自分が弱いのではないか」と感じ、話すことをためらう人もいます。そもそも、自分が人間関係に傷ついていることや、仕事に意味を求めていることに気づいていない場合もあります。
そのため、本人は決して嘘をついているわけではなく、その時点で説明しやすい、外側の問題を退職理由として挙げます。
しかし、表面に出てきた条件だけを変えても、内側の問題が整理されていなければ、次の職場でも同じような苦しさを感じる可能性があります。
迷いなく転職できる人と、動けなくなる人の違い
自分が何に困っていて、何を変えたいのかを言語化できている人は、転職についても比較的明確に判断できます。
「今の会社では、希望する経験を積むことが難しい」
「生活との両立に必要な働き方が、制度上できない」
「会社が目指す方向と、自分が大切にしたいことが異なる」
このように整理できていれば、転職先で確認する条件も明確になります。今の会社に残るのか、環境を変えるのかについても、納得して選びやすくなります。
一方で、本人も理由が分からないままモチベーションが下がっていると、「辞めたい気もするけれど、転職したい仕事もない」という状態になりやすくなります。
元気がない。以前より発言が減った。頼まれた仕事はするけれど、自分から提案しなくなった。
こうした状態は、本人の中で起きていることを一緒に紐解く必要があるサインかもしれません。
言葉になる前の違和感を、一緒に整理する
社員のモチベーションが下がっているとき、「もっと前向きに取り組んでほしい」と伝えるだけでは、本人もどうすればよいのか分かりません。
必要なのは、表面に出ている不満を否定せず、その奥にある気持ちや価値観、職場で満たされていないものを一緒に見つけていくことです。
Think for Designでは、自己理解を通して、社員が仕事で大切にしたいこと、力を発揮しやすい条件、現在の仕事で感じている違和感を整理します。
そして、本人が自分の状態を言葉にし、必要なことを会社へ相談したり、新しい役割を提案したりできる状態を目指します。個人が特定されない形で組織に共通する課題も整理することで、社員本人の努力だけに任せず、会社側が改善できることも考えていきます。
退職理由として語られた言葉だけを見るのではなく、その人の元気がなくなった理由を、言葉になる前から一緒に考える。
それが、本人にとっても会社にとっても、納得できる選択肢を増やす支援になると考えています。