面談で聞いた希望に返す三つの答え
人が辞めない会社は、経営から見れば安心です。求人を出す回数が減り、教え直す手間も減ります。辞めていないという事実は、一人ひとりが、いまの仕事に納得しているかどうかまでは教えてくれません。
面談で希望を聞くところまでは、多くの会社がやっている。分かれるのは、そのあとです。会社が何を返すかで、翌日からの仕事が変わるか、何も変わらないかが決まります。返し方は三つに分けられると思います。
ここで働く人には比べる資料が渡らない
転職する人の手元には、募集要項が届きます。任される仕事、働く時間、給料。どの会社も同じ項目で書いてあるので、並べれば違いが見えます。
ここで働いている人にも、入社のときの労働条件通知書があります。そこに書いてあるのは、入社時点の条件です。この先どの仕事を任せるつもりかまでは書かれていません。等級表や賃金表を足しても、そこは埋まらない。
比べる材料が渡らないので、本人のほうも、希望をどこまで言っていいのかが分かりません。面談で聞かれても、当たりさわりのない答えで済ませることになります。会社の手元に残るのは、その当たりさわりのない答えです。
引き止めを目的にすると聞く理由がなくなる
人が辞めないようにする。そう目的を置くと、打つ手は決まってきます。給料を上げる。役職をつける。辞めそうな人を早く見つける。
この置き方をすると、本人がどこへ向かいたいのかまでは聞かなくてよくなる。聞かなくても引き止めはできるからです。面談は、辞めそうかどうかを確かめる時間に寄っていくと思います。
会社の返し方は三つある
面談で希望がはっきり出てきたときには、会社の返し方は三つです。
一つ目は、いまその仕事を任せること。二つ目は、任せられないと理由をつけて答えること。三つ目は、条件と期日をつけて、いつまでに何を身につけてほしいのかを伝えることです。
どれを選んでもかまいません。本人が、明日から何をすればいいかを決められれば足りると思います。
三つのどれでもないのが、いいですねで終わる面談。会社がその希望をどう扱うことにしたのかが本人に届かず、シートの欄だけが埋まります。
デザイン会社で考えてみる
社員が八人のデザイン会社に、制作を任せている方がいるとします。言われたとおりに手を動かすところは速く、社内での評判もいい。辞めたいという話も出ていません。
面談で、お客様との打ち合わせに出て方向を決めるところをやってみたい、と出てきたとします。今まで言わなかったのは、頼まれていない話だからです。
ここでは、三つ目を選んだとします。来月から、打ち合わせに同席してもらう。来期には一社を任せる。それまでに、提案の中身を自分で組み立てられるようになってほしい。この三点を、面談の席で本人に伝える。
同じ作例で二つ目を選んだ場合も、その場ではっきり伝えるところは変わりません。ここをぼかすと、宙に浮いた期待が、何年かあとに辞める理由へ変わります。任せられないと聞いた人は、ここで積めるものと積めないものを見分けられる。その結果、ここでは難しい、と本人が決めることもある。何も言わないまま数年たって辞表が出てくると、会社のほうも手が打てません。
同席を任せると仕事の進め方が変わる
受け持つ案件の数は、しばらく変わりません。増えるのは、打ち合わせに出る時間。
さきほどの方なら、その席でお客様の言葉を書きとめる。社内に戻ってから、なぜその方向になったのかを担当者に聞くようになります。次の案件では、そのメモを持ってきて案を出す。肩書きも受け持ちも同じまま。先に変わるのは、制作に取りかかる前の動きです。
希望のほうは暮らしに合わせて変わる
もう一つ、抜けやすいところがあります。本人の暮らしが、会社の都合とはかかわりなく変わっていくことです。
入社したころは覚えることがいちばんだった人にも、家族と過ごす時間を守りたくなる時期が来ることがあります。生活が落ち着いたので、仕事の幅を広げたくなる時期も来ます。三年前の面談で聞いた希望が、いまの生活にも合っているとは限りません。
三つの答えを、任せる仕事にだけ使うと、暮らしの側の希望が拾えません。働く時間や受け持ちの量にも、同じ三つで返す。そう決めておかないと、幅を広げたい人の希望だけが集まって、時間のほうを見直したい人は黙ったままになると思います。
返し方を上司ごとの判断にしない
三つの返し方を、それぞれの上司の判断に任せておくと、部署でばらつきます。返す上司のところでは、次に任せる仕事や同席の機会が、その席で決まります。返さない上司のところでは、面談の前と何も変わりません。
残す型は、次のとおりです。面談のシートに、何を増やしたいかと、守りたい時間はあるかの二問を毎回入れる。出てきた言葉は、面談をした人が、まとめ直さずに本人の言い回しのままメモに残す。次の面談までに、三つのどれを返したのかを、そのメモの下に書き足す。
誰がいつどこに書くかまで決めておけば、担当が替わっても回ると思います。会社が持てるのは、この記録と、そこに書いた返事までです。ここで働く理由のほうは、それを読んだ本人が決めます。