一文がないと、判断は社長に戻ってくる

組織づくり

新しい話が来るたびに、判断が社長のところへ上がってくる。そういう会社の話を、僕はよく伺います。

出るか出ないか、受けるか受けないか、置くか置かないか。ひとつひとつは大きな話ではありません。それでも数が増えると、決める人のところで詰まります。

任せる基準がないから任せられない

任せられない理由を、人の経験不足に置いてしまうことがあります。もう少し分かってきたら任せよう、という言い方になる。

ただ、経験があっても、比べる基準が無い判断はできないと思います。この話を受けるべきかどうかを考えるとき、手元に何もなければ、決めた人の顔色を見にいくしかありません。

その基準は、たいてい一文で足ります。長い方針書ではなく、忙しいときに思い出せるくらいの長さのものです。

二十文字ちょっとの一文

うちの会社が長野市で運営している tone village に、空と風というトリミングサロンがあります。この店が自分で言っている一文は「特別な日常ではなく、穏やかでずっと続く日常を」です。二十文字ちょっとしかありません。

この店は、はじめましての日にトリミングをしません。初めて来ていただいたわんちゃんには、飼い主さんと離れて過ごす練習からお願いしています。切りはじめるのは二週間後。売上のことだけを考えたら、その日に切ったほうがいいに決まっています。

大型犬もお受けしていません。数を増やすより、一頭ずつに時間をかけるほうを選んだからです。

どちらも、あの一文から出てきています。だから現場の人も、なぜこうしているのかを自分の言葉で言えます。

広報が語れるかどうかで分かる

その一文が社内に届いているかどうかは、外から聞かれたときに分かるのだと思います。

名前の由来を知っているのが決めた人だけだと、聞かれた人は、社長が決めたので、と答えることになります。取材でも、採用の説明会でも、同じことが起きます。説明が人によって少しずつ変わっていって、どれが本当なのか、社内でも分からなくなっていきます。

広報の育成というと、書き方や話し方の話になりがちです。その手前に、何を軸に話すのかが一文で置かれているかどうかがあると思っています。軸が置かれていれば、書き方のほうは経験で伸びていくと思います。

基準が無いと事業のほうが増えていく

一文が無いまま進むと、断る理由が出てきません。良さそうな話が来るたびに足していって、一年後には何をしている会社か説明しづらくなる。そうなると、お客様が比べるところは値段しか残らなくなります。

新しいサービスを立ち上げるときも同じです。名前を先に決めて中身はこれから、という順番で進めると、その名前は社内だけの呼び名で終わります。中身が固まったころには合わなくなっていて、つけ直しになることも多いように思います。

現場で思い出せる長さかどうか

一文を書くときの条件は、ひとつだけだと思っています。忙しい日の現場で思い出せる長さかどうか。

役員だけで集まって書くと、たいてい長くなってしまいます。大事なことがいくつも出てきて、どれも落とせなくなるからです。整った言い回しを足すほど、現場の実感からは離れていきます。会議室では立派に見えて、判断の場面では一度も出てこない。そういう文がいちばん多いように思います。

手が止まるときは、社内の紙より、このあいだ来てくださったお客様のほうを見ます。その方が帰るときに、何が変わっていたか。そこに残っているものが、一文の材料になります。

任せられる範囲を決めているのは、人の力量だけではないと思います。手元にある一文の分だけ、任せられます。

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