自己理解が深い社員ほど、なぜ主体的に働けるのか
written by apricot
私はこれまで、キャリアコーチングを通して多くの方の働き方についてお話を聞いてきました。
その中で感じるのは、「仕事にやる気がないように見える人」が、本当に仕事への意欲を失っているとは限らない、ということです。
「何のためにこの仕事をしているのか分からない」
「頑張っても、自分の成長につながっている実感がない」
「自分には何が向いているのか分からない」
そんなふうに、仕事と自分とのつながりが見えなくなっているだけのことがあります。
私自身も、美容業界で約10年間働く中で、6回の転職を経験しました。
当時は、「もっと自分に合う会社があるはず」「環境を変えれば、もっと前向きに働けるはず」と思っていました。
けれど、会社を変えても、しばらくすると似たような悩みにぶつかる。その経験を重ねる中で気づいたのが、環境を選ぶ前に、自分自身を理解する必要があるということでした。
自分は何を大切にしているのか。
どのようなときに力を発揮できるのか。
反対に、どのような環境では苦しくなってしまうのか。
仕事を通して、どのような自分でありたいのか。
それが分かるようになってから、働き方や人との関わり方、仕事の選び方が少しずつ変わっていきました。
この経験があるからこそ私は、社員の主体性について考えるときも、最初から「もっと自分で考えて行動してほしい」と求めるのではなく、その人が自分自身をどのくらい理解できているかを見ることが大切だと考えています。
主体性は「自分で選んでいる感覚」から生まれる
主体的に働くというと、指示される前に動くことや、積極的に仕事を引き受けることをイメージするかもしれません。
もちろん、それも主体的な行動の一つです。
ただ、本来の主体性は、行動の量だけで判断できるものではありません。
自分なりに仕事の意味を理解し、「私はこうしたい」「この状況なら、こうすることが必要だと思う」と、自分の意思を持って選択できること。それが主体性だと私は考えています。
そのためには、自分の中にある判断基準を知る必要があります。
例えば、仕事で大切にしたいことは人によって異なります。
ある人は、新しいことを学び、成長している実感を大切にしています。
ある人は、誰かの役に立てたと感じたときに、仕事への意欲が高まります。
また、仲間と一緒に目標へ向かうこと、専門性を深めること、安心できる環境で丁寧に仕事をすることを大切にしている人もいます。
どれが正しいということではありません。
自分が何を大切にしているのかが分かり、それが今の仕事とどのようにつながっているのかを理解できると、仕事の見え方が変わります。
「この仕事は、自分が大切にしたいことにつながっている」
「この役割なら、自分の強みを生かして誰かに貢献できる」
「今取り組んでいることは、なりたい自分に近づく経験になる」
このような接点が見つかると、仕事は「会社から与えられたもの」から、「自分で意味を見つけ、選んで取り組むもの」へと変わっていきます。
私は、この納得感が、内側から生まれるモチベーションや主体性の土台になると考えています。
自己理解は、自分の長所を探すことではない
自己理解というと、「自分の強みと弱みを書き出すこと」を想像する方もいるかもしれません。
もちろん強みを知ることも大切ですが、私がコーチングで扱う自己理解は、もう少し広いものです。
これまでの人生や仕事を振り返りながら、
- どのようなときに充実していたのか
- どのような環境で自然に力を発揮できたのか
- どのような役割を任されたときに嬉しかったのか
- 反対に、何が続くと心身が消耗するのか
- 周囲からどのようなことで頼られてきたのか
- 自分が無意識に行っている工夫は何か
- 仕事や人生を通して、何を実現したいのか
といったことを、対話を通して一つずつ整理していきます。
本人にとって当たり前にできることほど、自分では強みだと気づきにくいものです。
「相手に合わせて説明方法を変えていた」
「周りが動きやすいように、情報を整理していた」
「困っている人を見ると、必要なことを調べていた」
こうした行動も、本人は「誰でもやっている」「大したことではない」と思っていることがあります。
けれど、話を聞いていくと、別の場面でも同じ行動をしていたり、その行動によって助かった人がいたりします。
私は、その人が話してくれた経験を一緒に見ながら、「ここにも同じ強みが出ていますね」「それは、どんな思いから行動したのでしょう」と問いかけていきます。
コーチが答えを決めるのではなく、本人の中にすでにあるものを、一緒に見つけて言葉にしていく。
それが、私がコーチングで大切にしていることです。
すぐに目標を決めようとしない
企業の中では、目標を明確にすることが求められます。
ただ、「これからどうなりたいですか」「今後の目標は何ですか」と聞かれても、すぐには答えられない人もいます。
そのようなとき、私は「ビジョンがない」「向上心がない」とは考えません。
自分が大切にしたいことや、望んでいる生き方がまだ言葉になっていないだけかもしれないからです。
自分のことが分からない状態で目標をつくると、会社から期待されていることや、周囲から評価されそうなことを答えやすくなります。
それでは、目標を立てても「やらされている感覚」が残り、行動が長く続きません。
そのため、Think for Designのコーチングでは、最初から目標を決めるのではなく、現在、過去、未来の順番で整理していきます。
コーチングでは、現在・過去・未来をつないでいく
1.現在の仕事について整理する
まずは、今の仕事内容や役割、人間関係、働き方について話を聞きます。
ここで大切にしているのは、「何が嫌なのか」だけで終わらせないことです。
今の仕事の中で、続けたいことは何か。
すでに力を発揮できていることは何か。
どんなときに、少しでもやりがいを感じるのか。
反対に、何が続くと苦しくなるのかも整理します。
また、仕事の悩みをすべて本人の意識や能力の問題にはしません。
本人の工夫によって変えられることなのか。
上司との対話が必要なのか。
業務量や評価制度、役割の曖昧さなど、組織側が見直す必要があるのか。
ここを分けて考えることも重要です。
2.過去の経験から、力を発揮できる条件を探す
次に、これまでの人生や仕事を振り返ります。
充実していた時期には、どのような人たちと関わっていたのか。
何に夢中になっていたのか。
どのような役割を担っていたのか。
一方、苦しかった時期には、何が損なわれていたのか。
複数の経験を並べてみると、その人が大切にしている価値観や、繰り返し発揮してきた才能、力を発揮しやすい環境が見えてきます。
3.自分を止めている思考のパターンを理解する
強みを持っていても、「迷惑をかけてはいけない」「完璧にできなければ意見を言ってはいけない」といった考えが、行動を止めていることがあります。
私は、こうした考えを単純に「悪い思考」として手放すように促すことはしません。
その考えが生まれた背景には、これまで自分や人間関係を守るために必要だった理由があるからです。
まずは、なぜそのように考えるようになったのかを理解する。
そのうえで、今の自分にも必要なのか、別の方法を選べるとしたらどのような行動ができるのかを考えます。
相談する、頼る、自分の希望を伝える。
いきなり大きく変わるのではなく、これまでとは少し違う行動を試せる状態をつくっていきます。
4.強みを、仕事で生かせる行動に変える
「コミュニケーション力があります」「責任感があります」という言葉だけでは、仕事の中でどう生かせばよいのかが分かりません。
そこで、強みを具体的な行動として言葉にしていきます。
例えば、
- 相手の理解度に合わせて説明方法を変えられる
- メンバーが動きやすいように情報を整理できる
- 一人ひとりの得意・不得意を見ながら役割を調整できる
- 問題が起きる前に必要な準備を考えられる
といった形です。
具体的な行動まで整理できると、「自分はこの業務で力を発揮できそう」「この役割にも挑戦できるかもしれない」と、今の仕事の中に新しい可能性を見つけやすくなります。
5.自分の目標と、会社の目標をつなげる
最後に、自分が仕事を通して実現したいことと、会社が大切にしている理念や提供価値との接点を探します。
ここでも、会社の理念に本人を合わせることが目的ではありません。
本人が大切にしていることと、会社が目指していること。その中に、重なる部分はあるのか。
自分の強みを通して、顧客や同僚にどのような価値を届けたいのか。
本人自身の言葉で考えることを大切にしています。
その接点を見つけられたとき、会社の理念は、会社から覚えるように言われた言葉ではなくなります。
自分の仕事とつながった、行動の基準になっていきます。
本人だけに変化を求めない
私が企業向けのコーチングで特に大切にしたいのは、社員本人だけに変化を求めないことです。
本人が自分の強みを理解しても、意見を言うと否定される環境では、その力を発揮することはできません。
新しいことに挑戦したいと思っても、失敗を許されない職場では、自分から手を挙げることは難しいでしょう。
仕事を丁寧に進めたい人に、常に処理速度だけを求めれば、本来の良さが弱みに見えてしまうこともあります。
だからこそ、社員の自己理解と同時に、会社や上司も、その人が力を発揮できる環境を一緒に考える必要があります。
どのような関わり方があると、安心して挑戦できるのか。
どのような役割なら、強みを生かせるのか。
どのような支援や権限が必要なのか。
仕事量や評価の方法に、見直すべきところはないか。
私は、コーチングを「本人を会社に適応させるためのもの」にはしたくありません。
本人が自分らしく力を発揮できることと、会社が目指す方向に進むこと。その両方が重なる場所を、本人・上司・組織の対話によって見つけていくことが大切だと考えています。
社員の自己理解が、会社のブランドを育てる
社員が自分の価値観や強みを理解し、それを仕事で生かせるようになると、少しずつ日々の行動が変わります。
自分の考えを伝える。
必要なときに周囲へ相談する。
顧客のために、より良い方法を考える。
自分の得意なことを使って、チームに貢献する。
その行動に会社の理念や大切にしている価値が重なることで、社員一人ひとりが「会社らしさ」を表現する存在になっていきます。
ブランドは、ロゴやデザイン、広告だけでつくられるものではありません。
顧客が社員と関わったときに感じたこと。
働く人が、会社の中で経験していること。
社員が日々、どのような基準で判断し、行動しているか。
こうした積み重ねによって、「この会社は、こういう会社だ」という印象がつくられていきます。
だからこそ、会社のブランドを育てるためにも、最初に必要なのは社員に理念を覚えてもらうことではなく、一人ひとりが自分自身を理解することだと考えています。
自分を理解する。
自分の強みを仕事に生かす。
自分の目標と会社の目標をつなげる。
会社らしい価値を、日々の行動で届ける。
その流れができたとき、仕事は「会社からやらされるもの」ではなく、自分で意味を見つけ、選びながら取り組むものへと変わっていきます。
人が育てば、組織が変わる。
組織が変われば、会社のブランドが育つ。
Think for Designでは、一人ひとりの価値観や強みを言葉にし、本人が納得できる目標や役割を一緒に考えています。
そして、その成長を本人だけのものにせず、組織の成長と会社のブランドにつなげていくことを目指しています。