組織づくり

「できません」と言える人が、いちばん育つ

written by 中村 弘樹

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「できます」と言い切れる人が頼もしく見える。だから、若いメンバーほど背伸びをします。ですが、背伸びで受けた仕事は、その人を育てないことのほうが多い。今日は、組織における「等身大」の話を書いてみます。

背伸びで受けた仕事は、学びが止まる

本当は少し不安がある分野の仕事を、「得意です」と言って受けたとします。取れた瞬間は嬉しい。ですが、そのあとずっと、得意なふりをし続けることになります。

分からないことを、分からないと言えない。相談もできない。時間もかかる。しかも相手の期待値は「得意な人」に合わせて上がっているので、普通にやっても物足りなく見えてしまう。

一方で、最初に「そこは正直まだ経験が浅いので、こういうやり方で進めさせてください」と伝えて受けた仕事は、すべての会話が軽くなります。分からないことを聞ける。途中で相談できる。結果として、そちらのほうがいいものができることも多い。

同じ人が、同じ力でやっているのに、最初の一言が違うだけで、進み方も学びの量も変わります。背伸びの本当のコストは、時間でも品質でもなく、質問できなくなることだと思っています。

「できません」を言える組織かどうか

ここで問われるのは、本人の性格ではなく、組織の側です。

できないと言った人が評価を下げる組織では、誰も言いません。全員が少しずつ背伸びをして、少しずつ質問をやめて、問題が表に出るのは手遅れになってからになります。

逆に、「これはできます、これはできません」と言える人が信頼される組織では、報告が早くなります。できないと言える人は、都合の悪いことも言ってくれる人だと分かるからです。だから、その人が「できます」と言ったときの言葉が、そのまま信用になる。

等身大で言えることは、それ自体が信頼です。なんでもできます、と言われるより、ずっと安心できる。これは、社内でも、お客様との関係でもまったく同じです。

自分の実物は、自分ではいちばん見えない

では、なぜ人は背伸びをしたくなるのか。多くの場合、自分の実物が自分でよく見えていないからです。

自分ができていることは、見えません。毎日やっていることは、本人にとって当たり前になってしまうので、価値だと思えない。だから手元にあるものが少なく見えて、外から何かを持ってきて足そうとします。

ですが、周りから見ると、そこはまったく当たり前ではなかったりします。「よくそんなに細かく見られますね」「そこまで気にする人はあまりいません」。言われた本人は、たいていきょとんとしています。褒められている自覚がない。

ここに、上に立つ人の仕事があります。本人が当たり前だと思っている部分を、言葉にして本人に返すこと。自分の中を掘っても、当たり前のものは出てきません。人の目を借りたほうが早いのです。

私たちがブランディングの支援に入るときも、経営者の中だけを掘ることはしません。周りの方にも聞きますし、お客様がなぜこの会社を選んだのかも聞きに行きます。自分では見えない部分に、たいてい答えがあるからです。組織の中でも、同じことが起きています。

比べる相手を、間違えない

背伸びが始まるのは、たいてい誰かと比べたときです。

今は、その仕組みが強くできています。SNSを開けば、他社の一番いい瞬間が並んでいる。うまくいった事例、いい採用の話、受賞の報告。こちらは自分たちの全部を知っています。うまくいっていない部分も、迷っている時間も、地味な作業も。

他社の完成品と、自分たちの作りかけを比べている。これでは、勝てるはずがありません。そこで足りない気がして少し盛る。すると誰かがそれを見てまた盛る。全員が少しずつ疲れていきます。

比べるなら、去年の自分たちと。組織の成長は、他社の見せ方の中には映っていません。

等身大は、現状維持ではない

誤解されやすいところですが、等身大でいることと、成長しないことは、まったく別です。

等身大とは、今どこに立っているのかを正確に分かっている状態のこと。これが分かっていないと、そもそも前に進めません。地図の現在地が違うところに打たれていたら、どこへも行けないからです。背伸びは、その現在地を実際より少し先に打ってしまうこと。そこから道を引くから、いつまでたっても着かず、なんとなく苦しさだけが続きます。

背伸びと成長は、順番が逆です。背伸びは、見せ方を先に変える。成長は、中身を先に変えて、見せ方はあとからついてくる。

中身が先の組織は、だんだん自分たちを大きく見せる必要がなくなっていきます。実物が上回っていくので、説明がいらなくなる。逆に、見せ方が先の組織は、いつまでも説明し続けることになります。

まず、現在地を正確に言葉にする

人が育つ組織をつくるとき、私たちが最初にやるのは、理想像を掲げることではありません。今どこにいるのかを、できるだけ正確に言葉にすることです。

できていること、できていないこと。得意な人、これから経験を積む人。それを隠さずに置けるようになると、背伸びの必要がなくなり、質問と相談が戻ってきます。育つ組織は、たいていそこから始まります。

短距離なら、背伸びでも走れます。ですが、事業も人材育成も、けっこう長い。長く走るなら、自分の足のサイズに合った靴のほうがいいと思っています。

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