1on1をしているのに、社員の本音が見えない理由
written by apricot
退職の相談を受けた方から、
「実は、ずっと前から辞めようか迷っていました」
と打ち明けられることがあります。
その話を聞きながら、会社では何度も1on1をしていたはずなのに、そこでは言えなかったのだなと感じることがあります。
上司からすれば、少し複雑だと思います。
定期的に話す時間をつくっていたし、「困っていることはない?」とも聞いていた。それなのに、どうして話してくれなかったのだろう。自分は信頼されていなかったのだろうかと、自分の関わり方を責めてしまう方もいるかもしれません。
でも、社員が本音を話せなかったからといって、上司との関係が悪かったとは限りません。
むしろ、お世話になっている上司だからこそ、言えないこともあります。
関係が良いからこそ、言いにくいこともある
上司は、仕事の相談に乗ってくれる人であると同時に、自分を評価する人でもあります。
「今の仕事が合っていない気がする」と言ったら、やる気がないと思われるかもしれない。
「別の部署に興味がある」と伝えたら、今のチームを離れたいと思われるかもしれない。
「仕事がつらい」と話したら、任せられない人だと判断されるかもしれない。
社員の立場からすると、本音を伝えた後に何が変わるのかが分かりません。
特に、周囲との関係を大切にする人や、期待に応えようとする人ほど、自分の気持ちよりも、話したことで相手がどう感じるかを先に考えます。
「忙しい中、時間を取ってもらっているのに、不満ばかり言うのは申し訳ない」
「上司も大変そうだから、自分のことで困らせたくない」
そう考えているうちに、最も角の立たない「大丈夫です」を選んでしまいます。
雑談ができることと、将来への迷いや仕事への違和感まで話せることは、少し違うのだと思います。
本人も、自分の本音が分かっていないことがある
社員が本音を隠しているというより、本人自身が、まだ自分の気持ちをうまく説明できていないこともあります。
仕事が嫌いなわけではない。
人間関係が悪いわけでもない。
会社に大きな不満があるわけでもない。
それでも、なぜか疲れる。このまま働き続けることを考えると、不安になる。
このような曖昧な感覚は、「何に困っていますか」と聞かれても、すぐに言葉にはできません。
本人も理由が分からないまま話せば、わがままに聞こえるのではないか、ただ甘えているだけなのではないかと考えてしまいます。
だから、はっきり説明できるようになるまで、誰にも話さずに抱えてしまうのです。
けれど、話しながら少しずつ整理していくと、本当につらかったことが見えてきます。
仕事そのものではなく、急な依頼が続き、予定どおりに進められないことが負担だった。
同僚との関係ではなく、常に周囲の期待に応え続けようとして疲れていた。
現在の仕事への不満ではなく、数年後も同じ働き方を続ける未来が想像できなかった。
最初から、本人の中に分かりやすい答えがあるとは限りません。本音は、質問をすれば取り出せるものではなく、対話の中で本人と一緒に見つけていくものだと感じています。
「困っていること」だけを聞かない
1on1で本音を聞こうとすると、「困っていることはある?」「何か不満はない?」という質問が多くなりがちです。
ただ、本人が自分の状態を整理できていないと、何を話せばよいか分からなくなります。
そのようなときは、問題を直接聞くよりも、最近の具体的な出来事から振り返った方が話しやすくなります。
「最近、仕事がやりやすかったのはどんな日だった?」
「反対に、仕事が終わった後にどっと疲れたのは、どのような日だった?」
「今の仕事で、自分なりに頑張っているけれど、あまり気づいてもらえていないと感じることはある?」
このような会話をしていくと、本人の中でも「自分はここに負担を感じていたのかもしれない」と気づくことがあります。
会社が答えを聞き出そうとするのではなく、本人が自分の状態に気づけるように、一緒に振り返っていくことが大切です。
会社の人には言えない話があっても、不自然ではない
私は、社外のキャリアコンサルタントとして社員の方と話す意味は、上司の代わりに本音を聞き出すことではないと思っています。
会社の中では役割や評価、人間関係があります。そこで働き続ける以上、まったく気にせず何でも話すことは難しいものです。
社外の第三者であれば、すぐに評価や異動の話と結びつけず、一度立ち止まって自分の気持ちを整理できます。
「辞めたい」と思っていたけれど、よく考えると、会社を辞めたいのではなく、今の役割を変えたかった。
自信がないと思っていたけれど、求められていることが曖昧で、何を目指せばよいか分からなかった。
人間関係が苦手だと思っていたけれど、困ったときに相談できる相手が決まっていなかった。
対話を通して、最初に考えていたこととは違う課題が見つかる場合があります。
社員自身が自分の状態を理解できれば、会社へ何を相談したいのかも伝えやすくなります。
話を聞くだけでは、同じ悩みが繰り返される
一方で、社員が外部の人に話して少し楽になっても、職場の状況が何も変わらなければ、同じ悩みを抱える可能性があります。
複数の社員が「自分の役割が分からない」と感じている。
相談してよいタイミングが分からず、一人で抱えている人が多い。
上司によって仕事の任せ方や評価の基準が大きく違う。
このような声が重なっているのであれば、社員一人ひとりの考え方だけではなく、組織の仕組みやマネジメントにも目を向ける必要があります。
もちろん、個別の相談内容を、そのまま会社へ伝えるわけではありません。安心して話せる場を守りながら、組織に共通している傾向を整理し、経営者や管理職と改善できることを考えます。
社員の気持ちを整えることと、働く環境を整えること。その両方があって、初めて対話が職場の変化につながります。
上司との1on1も、外部との対話も必要
外部のコーチングがあれば、社内の1on1は必要ないということではありません。
上司との1on1には、日々の仕事を振り返り、期待する役割や今後の成長について話し合う大切な役割があります。
一方、外部との対話には、評価から少し離れ、自分の気持ちや今後の生き方まで含めて整理できる良さがあります。
それぞれが違う役割を持ち、必要に応じてつながることで、社員は一人で抱え込まずに済みます。上司も、部下の悩みをすべて自分だけで受け止めなくてよくなります。
社員の本音が見えないとき、上司の聞き方だけを問題にしなくてもよいのだと思います。
本音を話せる人がいるか。
話した後に、必要な相談へつなげられるか。
社員の声を、職場の改善に生かせるか。
一回の面談ですべてを聞き出そうとするのではなく、社員が少しずつ自分の気持ちを言葉にできる環境を、会社全体でつくっていくことが大切です。
Think for Designでは、社員一人ひとりが、自分の価値観や強み、仕事で感じている違和感を整理できる個別コーチングを行っています。
そこで見えてきた組織全体の傾向は、個人が特定されない形に整理し、経営者や管理職へのフィードバック、役割や働く環境の見直しにつなげます。
1on1を続けていても社員の本音が見えない、退職の申し出を受けて初めて悩みを知ることが続いている。そのような企業様は、社内だけで抱えず、一度ご相談ください。