[支援事例]自己理解をした社員は、その後、職場でどう変わったのか
written by apricot
自己理解というと、「自分の強みを知ること」や「向いている仕事を見つけること」をイメージする方が多いかもしれません。
もちろん、それも大切です。
けれど、実際に支援をしていて感じるのは、自己理解の本当の価値が表れるのは、分析が終わった後だということです。
自分の考え方や行動の傾向が分かると、これまで「自分には向いていない」と思っていた仕事の見え方が変わったり、周囲への頼り方が変わったりします。
転職しかないと思っていた人が、今の会社で新しい役割を見つけることもあります。仕事を変えるのではなく、働き方を少し調整するだけで、前向きに働けるようになる人もいます。
今回は、自己理解からスタートした3人が、その後、実際の職場でどのような変化を起こしたのかをご紹介します。
「売上管理が苦手」だと思っていたアパレル店長
一人目は、アパレルショップで店長をしていた女性です。
店長として接客やスタッフとの関係づくりには丁寧に向き合えていましたが、売上管理には苦手意識を持っていました。
店舗の数字を見ながら、短い期間で戦略を考え、提案書にまとめ、すぐに実行へ移す。そうしたスピード感が求められる仕事になると、思うように進められません。
「店長なのに、売上管理が苦手でいいのだろうか」
本人の中には、そのような自信のなさもありました。
しかし、対話をしながら苦手な部分を細かく見ていくと、数字を扱うことや、計画を立てることそのものが苦手なわけではありませんでした。
彼女は、目の前のことを一つずつ整理し、納得できるところまで丁寧に考えることが得意な人でした。
一方で、売上管理以外にも多くの仕事を抱えていたため、戦略を考える時間が細切れになっていました。短い時間で考えをまとめようとするものの、本人が納得できる状態まで深められず、「やはり自分は売上管理が苦手だ」と感じていたのです。
もう一つ、仕事を抱え込んでしまう理由がありました。
彼女は責任感が強く、スタッフへ仕事を頼むことに申し訳なさを感じていました。
「自分が店長なのだから、自分でやらなければいけない」
「お願いしたら、相手の仕事を増やしてしまう」
そう考え、本来はスタッフに任せられる仕事まで引き受けていました。
頼ることを、実際の職場で試してみる
自己理解を進める中で、彼女は、自分の責任感が強みである一方、仕事を抱え込む原因にもなっていることに気づきました。
そこで、まずは周囲へ弱音を見せたり、小さな仕事をお願いしたりするところから始めました。
本人は、頼んだら嫌な顔をされるのではないか、店長として頼りないと思われるのではないかと心配していました。
ところが実際にお願いしてみると、スタッフは意外なほど自然に受け入れてくれました。
普段ほとんど頼らない店長からお願いされたことで、「自分を信頼して任せてくれた」と感じたスタッフもいたようです。
それまで店長が決めたことを実行することが多かった後輩からも、少しずつ意見が出るようになりました。
仕事を任せたことで、店長の負担が減っただけではありません。スタッフ側にも、「自分がこの店舗を支えている」という責任感が育っていったのです。
彼女自身は、売上管理や店舗の方向性を考える時間を確保できるようになりました。
一人で落ち着いて数字を確認し、情報を整理しながら考える時間が取れると、本人が納得できる計画や戦略を立てられるようになりました。
以前は苦手だと思っていた売上管理も、能力が足りなかったのではありません。
自分に合った考え方ができる時間を持てず、ほかの仕事まで抱え込んでいたために、力を発揮できていなかったのです。
自己理解をきっかけに仕事の任せ方が変わり、結果としてスタッフの成長、店長自身の役割への集中、店舗の方向性の明確化につながりました。
「この会社では成長できない」と感じていた飲食販売スタッフ
二人目は、飲食販売の店舗で働いていた社員です。
彼女は、現場のスタッフから相談されたことや、店舗で起きている問題を上司へ伝える役割を自然と担っていました。
誰かが働きにくさを感じていれば話を聞き、業務が滞っていれば、もっとスムーズに進める方法を考える。
自分の担当業務だけではなく、店舗全体が円滑に動くことを常に考えていました。
しかし、現場の意見を上司へ伝えても、なかなか変化は起きませんでした。
何度も提案するうちに、次第に煙たがられているように感じるようになります。
「私は、余計なことを言っているのかもしれない」
「ここにいても、これ以上成長できないのではないか」
そう考え、転職を視野に入れるようになっていました。
問題を指摘する人ではなく、全体を整えられる人だった
自己分析を進める中で見えてきたのは、彼女が単に不満を伝えていたわけではないということでした。
彼女は、周囲の声をよく聞き、みんなが無理なく働ける方法を考えることが自然にできる人でした。
誰をどこへ配置すれば、忙しい時間帯を乗り切れるか。どの順番で作業すれば、無駄な待ち時間を減らせるか。経験の浅いスタッフには、誰が一緒につくと動きやすいか。
そのようなことを、特別な仕事だと思わず、日常的に考えていました。
本人は「周囲が困っているから動いていただけ」と考えていましたが、それは店舗全体を見ながら、人と業務を調整する力でした。
転職を考えていたのも、仕事そのものが嫌だったからではありません。
自分が大切にしている「周囲の声を聞き、みんなでより良い状態をつくること」が、現在の役割では十分に生かせていないと感じていたのです。
自分の強みを、会社へ伝え直す
そこで、働き方や今後の役割について、改めて会社と話し合う機会を設けました。
これまでのように、現場の問題点だけを伝えるのではなく、自己分析を通して気づいた自分の強みや、今後経験してみたいことも言葉にしました。
人や業務を管理する仕事に興味があること。スタッフが働きやすい環境を考えることにやりがいを感じること。自分の調整力や効率性を、より責任のある立場で試してみたいこと。
その対話をきっかけに、彼女は大阪万博に出店する店舗のリーダーを任されることになりました。
多くのお客様が訪れ、通常とは異なる環境の中で、限られた人員をどのように配置し、業務を滞りなく進めるかを考える必要がある仕事です。
彼女がこれまで無意識に行ってきた、周囲の状態を見ながら人と仕事を整える力が、まさに必要とされる役割でした。
以前の彼女は、自分の提案を受け入れてもらえないことから、「この会社では成長できない」と感じていました。
しかし、自分の力を理解し、問題点だけではなく「どのような役割で貢献したいか」まで伝えたことで、会社との対話が変わりました。
自己理解は、本人の気持ちを整理しただけではありません。
本人の中にあった力を、会社が理解できる言葉に変え、新しい役割へつなげる役目を果たしたのです。
家族との時間を求め、異業種への転職を考えていた理学療法士
三人目は、理学療法士として働いていた女性です。
人を支援する仕事にやりがいを感じ、専門職として真面目に働いていました。
一方で、土日に休むことが難しく、夫や子どもと過ごす時間を十分に取れないことに悩んでいました。
夫は週末に休みを取って家族と過ごしている。それなのに、自分だけが仕事へ行かなければならない。
次第に、自分だけが家族から離れているような疎外感を抱くようになりました。
「家族との時間を大切にするなら、土日休みの異業種へ転職した方がよいのではないか」
そう考えるようになり、好きだった仕事へのモチベーションも下がっていました。
本当に変えたいものは、仕事内容なのか
自己理解を進めると、彼女は人を助け、その人が少しずつできることを増やしていく仕事に、強いやりがいを感じるタイプだと分かりました。
患者さんの状態を見ながら関わり方を変え、周囲のスタッフと協力しながら支援する現在の仕事では、彼女の強みが十分に生かされていました。
一方で、調和を大切にするあまり、職場の空気を読んで自分の希望を後回しにする傾向もありました。
周囲も土日に働いているから、自分だけ休みを希望してはいけない。
子どもがいることを理由に勤務を調整してもらうと、ほかの人に負担をかけてしまう。
そう考え、実際にどのような働き方が可能なのかを、上司へ確認しないまま転職を考えていました。
ここで改めて整理したのが、「家族との時間が取れた」と感じられるのは、どのような状態なのかということでした。
土日を毎週休めなければ満たされないのか。家族全員で旅行できるほどの連休が必要なのか。それとも、定期的に家族と過ごせる時間があればよいのか。
話を深めると、本人が本当に望んでいたのは、毎週土日を休むことではありませんでした。
週に一度、家族がそろって過ごせる時間があればうれしい。その時間が定期的にあることで、自分も家族の一員として過ごせていると感じられることが分かりました。
漠然としていた「家族との時間が欲しい」という希望を具体的にしたことで、必要な働き方も見えやすくなりました。
確認してみると、思っていたよりも選択肢があった
彼女は上司へ、今後の勤務について相談しました。
すると、週に1回、場合によっては月に何度か週末に休みを取れることが分かりました。
現在の職場でパート勤務へ変える方法や、強みを生かしながら異動する可能性もあると知りました。
相談する前は、「現在の職場では家族との時間を取れない」「異業種へ転職するしかない」と考えていました。
しかし実際には、会社へ確認していなかっただけで、複数の選択肢が残されていたのです。
もう一度、現在の仕事内容についても振り返りました。
患者さんの変化を支えること。相手の気持ちを考えながら関わること。周囲と協力し、より良い支援方法を考えること。
彼女が大切にしたいことや持っている強みは、すでに理学療法士の仕事の中で生かされていました。
転職したいと思っていたのは、仕事が合わないからではありません。
家族との時間が取れないつらさによって、仕事の良さまで見えなくなっていたのです。
最終的に彼女は職場を変えず、週末に休みを取る方法を選びました。
休みが一日変わっただけと言えば、小さな変化に見えるかもしれません。
けれど、本人にとっては、その時間が大きな意味を持っていました。
家族と過ごせる時間ができたことで休日の満足度が上がり、仕事にも前向きに向き合えるようになったと、後から連絡をいただきました。
職場を変えなくても、本人が本当に必要としている条件を整理し、会社と相談することで、働き方を変えられることがあります。
自分を知ると、今の職場で選べることが増える
自己理解をしたからといって、すべての悩みがなくなるわけではありません。
苦手な仕事が得意になるわけでも、会社がすべての希望をかなえてくれるわけでもありません。
ただ、自分はなぜこの仕事を苦しいと感じているのか。何を大切にしたいのか。どのようなときに力を発揮できるのかが分かると、会社と相談できる内容が具体的になります。
仕事を任せる。
新しい役割へ挑戦する。
働く時間を調整する。
現在の仕事の中にある、やりがいや強みを見つけ直す。
転職するか、我慢して残るかという二択ではなく、今の職場で選べることが増えていきます。
Think for Designでは、社員一人ひとりの価値観、強み、関心、働きやすい条件を整理するだけでなく、その後、実際の職場でどのように生かすかまで一緒に考えます。
本人が試した行動を振り返り、必要に応じて会社や管理職とも連携しながら、役割や働き方の調整につなげていきます。
自己理解を、分析シートの中だけで終わらせないこと。
社員が自分の力を理解し、今いる場所でより良い選択ができるようになること。
その積み重ねが、本人の働きやすさだけでなく、周囲の成長や、組織全体の力にもつながっていくと考えています。