「思い出してもらえる会社」は、広報ひとりではつくれない
written by 中村 弘樹
僕は、会社のブランドづくりや発信のお手伝いをする中で、経営者や広報の方から、よくこんな相談を受けます。「発信をがんばっているのに、なかなか反応が出ない」「広告を止めると、問い合わせもぱたっと止まってしまう」。
その背景にあるのは、多くの場合、マーケティングを「追いかけて捕まえる仕事」だと捉えていることだと思います。広告を出し、安くして、今すぐ、と背中を押す。たしかに出しているあいだは数字が動きます。でも、止めれば止まる。だからまた出す。追いかけ続けないと成り立たない構造は、走り続ける人を疲れさせます。
僕が大事にしているのは、その逆の考え方です。追いかけて売り込むのではなく、相手が必要になったその瞬間に、思い出してもらえるようにしておく。攻めて捕まえにいくより、見つけてもらう側にまわる、ということです。今日は、この考え方を「組織」と「人を育てること」の視点から書いてみます。
人は「必要になった瞬間」にしか動かない
そもそも、人が何かを頼むのは、たいてい「必要になった瞬間」です。歯が痛くなって、はじめて歯医者を探す。採用に困って、はじめて相談先を探す。「うちの理念が現場に伝わっていないな」と気づいて、はじめて誰かに聞いてみようと思う。その瞬間は、こちらの都合では起こせません。相手のタイミングでしか来ないんです。
だとすると、勝負は、その瞬間が来たときに「あ、そういえば」と思い出してもらえるかどうかです。どれだけいい仕事をしていても、必要になった瞬間に名前が浮かばなければ、いないのと同じになってしまう。マーケティングとは、この「思い出してもらえる状態」を、地道につくっておくことなのだと思います。追わずに、選ばれ続ける。僕らが「戦わないブランド」と呼んでいるものの正体も、突きつめれば、ここにあります。
「今日売れたか」で測ると、広報担当者は続かない
ここで、組織の話になります。「思い出してもらう準備」は、ふだんの発信の積み重ねです。ところが、その発信を任された広報や販促の担当者が、「今日いくつ売れたか」「この投稿で何件問い合わせが来たか」だけで評価されると、どうなるか。
数字がすぐに出ないことのほうが多いので、担当者はしんどくなります。がんばっても認められない、意味があるのか分からない。そうして、発信は「とりあえず埋める作業」になり、担当者のやる気も削られていきます。人が育つどころか、辞めてしまう理由にすらなる。
ここで効いてくるのは、物差しを変えることだと思います。「今日売れたか」で測るとつらいけれど、「覚えてもらえる接点が一つ増えたか」で測ると、続ける理由のほうが増えていく。役に立つ話をした、ふだんの様子を見せた、どんな考えで仕事をしているかを伝えた。その一つひとつを、ちゃんと前進として認める。担当者を成果の速さで追い立てるのではなく、積み重ねを評価する物差しに変える。これは広報のやり方の話であると同時に、人が育つ組織のつくり方の話でもあります。評価の軸は、人を育てることもあれば、逆に潰してしまうこともある。そう感じています。
「何屋として覚えてもらうか」は、社員みんなで決める
もう一つ、大切なことがあります。思い出してもらえる会社になるには、「そもそも、うちは何屋さんとして覚えてもらいたいのか」が、社内でそろっている必要があります。
多くの会社は「どう売るか」を先に考えます。でも、そこがぼんやりしていると、いくら発信しても記憶に残りません。「あれもできます、これもできます」と言うほど、結局なんの会社だったか思い出せなくなる。逆に、「この分野といえば、あの会社」と一言で覚えてもらえる旗が一本掲げられていると、必要になった瞬間に、まっさきに声がかかります。
そして、この旗は、広報担当者ひとりが掲げられるものではありません。経営者が語る言葉、現場の社員の日々のふるまい、お客様への一つひとつの対応。そのすべてが、外から見たときの「あの会社って、こういう会社だよね」という記憶をつくっています。発信している会社像と、社員の実際の行動がずれていれば、記憶はぼやける。だから、思い出してもらう準備というのは、実は「自分たちは何を大切にする集まりなのか」を、組織の内側でそろえていく仕事でもあるんです。同じ旗を全員が掲げられている会社は、追いかけなくても、思い出してもらえます。
準備は、遅れて効いてくる
最後に、正直にお伝えしておきたいことがあります。見つけてもらう準備は、すぐには効きません。種をまいてから芽が出るまでには、どうしても時間がかかる。特に、会社どうしの仕事や、値の張るものほど、比べたり、迷ったり、社内で相談したりする時間が長い。だから、少し続けて反応がないからとやめてしまうのが、いちばんもったいない。
いま声をかけてくださる方の多くは、ずっと前から、どこかでこちらを見てくれていた人だったりします。そのときは何も言わなかったけれど、必要になった瞬間に思い出してくれた。準備は、遅れて効いてくる。すぐ結果が出ないことを、失敗だと決めつけなくていい。まだ芽が出ていないだけ、ということも多いんです。
だからこそ、続けられる仕組みと、続ける人を支える評価が要ります。追いかけて捕まえにいくエネルギーを、覚えていてもらう準備と、それを担う人を育てることに向ける。そのほうが、長い目で見ると、会社にとっても、そこで働く人にとっても、ずっと健やかだと僕は思っています。
もしよかったら、「うちは、どんな瞬間に、誰に思い出してもらえたらうれしいのか」を、一度、社内で、あるいは支援先のお客様と一緒に、話してみてください。その問いから見えてくるものは、きっと発信のやり方だけでなく、これからどんな会社でありたいか、にもつながっていくはずです。