きれいなデザインは、なぜ「伝わらない」のか。
written by 中村 弘樹
デザインの仕事を続けていると、どこかで必ず壁に当たるテーマがあります。「きれいなのに、なぜか反応がない」。今日はこのズレについて、僕なりに整理してみたいと思います。
「きれいかどうか」は評価しやすい
そもそも、なぜ僕たちはデザインの良し悪しを「きれいかどうか」で語りやすいのでしょうか。理由はシンプルで、見た目の整いは目視で判断できるからです。
整っている、整っていない。色が合っている、合っていない。判断基準が共有しやすいぶん、社内のレビューもここに集中していきます。気づくと、デザイナー自身も「きれいに仕上げる」ことを最終目標にしてしまいます。
クライアントが本当に求めているのは「課題解決」
でも、依頼してくれているお客さまの本心は、ちょっと違うところにあります。
採用で人を集めたい。サービスの価値を伝えたい。新規問い合わせを増やしたい。お客さまが期待しているのは、見た目の美しさではなく、課題が動くかどうかです。きれいなデザインは「あるとうれしいおまけ」であって、目的そのものではないんですよね。
機能するデザインに必要な、三つの要素
では、課題が動くデザインには何が必要なのか。僕はいつも、三つの要素を確かめにいきます。
ひとつめは「行動の定義」。見た人に、最終的に何をしてほしいのか。ふたつめは「ターゲット明確化」。誰に向けてつくっているのか。みっつめは「感情設計」。見た人にどんな感情を呼び起こしたいのか。この三つが揃って初めて、デザインは動きはじめます。
飲食店メニューの、ささやかな違い
少しわかりやすくするために、飲食店のメニュー表を例にしてみます。
視覚的な調和だけを優先したメニューは、確かに美しい。でも、利益率の高い商品が目立たなかったり、視線の流れが整理されていなかったりして、注文の動きはあまり変わりません。
機能するメニューは、写真の大きさや配置で意図的に視線を誘導し、店として推したい商品が自然に目に入るようになっています。視覚の整いと、心理的な誘導が、両方そろっている状態です。
デザイナーとディレクターの違いは「人への想像力」
僕はよく、デザイナーとクリエイティブディレクターの違いを「人への想像力の量」と説明します。
誰が、どんな状態で、どんなふうにこのデザインを見るのか。その瞬間にどんな感情が起きてほしいのか。ここを想像できる量が、ディレクションの質を決めると思っています。きれいさは入口で、出口は人の行動が動くこと。これを忘れずに、毎回の制作に向き合いたいと感じます。