クリエイティブディレクターは「聞く人」
written by 中村 弘樹
「ディレクターになるとき、何がいちばん変わりましたか」。デザイナーの方からこうご質問をいただくたびに、僕は「答えを出す側から、問いを置く側になったことです」とお答えしています。
クリエイティブディレクションの実務は、半分以上が聞く仕事です。ここを職能として磨いていく視点を、整理してみたいと思います。
「答えを出す人」から「問いを置く人」へ
デザイナーの仕事は、与えられた要件に対してベストな答えを出すことに、多くの時間を使います。これは、解像度の高い手仕事です。
一方でディレクターは、「そもそも何を解くべきか」を見極めるところから始まります。要件を疑い、依頼の手前にあるお客さまの状態を確かめる。問いの置き方そのものが、最終アウトプットの質を決めていきます。
聞くは「受け身」ではなく「設計」
聞くという言葉は受動的に響きますが、僕のなかではかなり能動的な仕事です。
どんな順番で問いを置くか。どこで沈黙を許すか。話が広がりすぎたとき、どうやって核心に戻すか。聞くことは、相手の頭を一緒に整理する設計の仕事だと思っています。
無口な相手には、待つ覚悟を持つ
普段あまり話さないタイプの方とお話しするときは、答えやすい問いから入り、沈黙を尊重するようにしています。
無理に空白を埋めにいくと、本音は引っ込んでしまいます。「考えがまとまるまで、ゆっくりお願いします」と一言添えるだけで、その先に出てくる言葉が、ぐっと自分の言葉になっていきます。
よく話す相手には、核心の問いを差し込む
情報量の多い方とお話しするときは、こちらが話を止めるよりも、流れに乗りながら核心の問いを差し込んでいきます。
「いまの話で、ご自身がいちばん引っかかっているのはどこでしょう」「ここまでで、譲れないと感じているところはありますか」。流れを尊重しつつ、焦点をそっと絞ってあげる感覚です。
クリエイティブの仕事を、信頼関係の仕事に変える
聞くことを職能として育てていくと、不思議とプロジェクトの進み方が変わります。
「ご相談すれば、頭が整理される」と感じてもらえる関係になると、デザイン以前の判断段階から声をかけてもらえるようになります。クリエイティブの仕事は、技術の仕事であると同時に、信頼関係の仕事です。聞く力は、その土台をつくってくれます。