続かないのは意志が弱いからではない。三度独立して分かったこと
意志の弱さで説明されている問題の多くは、実は環境の設計で説明できます。今日は、私自身が三度独立して二度やめた経験から、「続く形」と「続かない形」の違いについて書いてみます。
二回とも、引き返せる形だった
僕は独立を三回しています。そのうち二回は、続けられなくてやめました。
一回目は二十三歳のとき。犬のセレクトショップを開き、その後ネットショップで売れるようになりました。ですが、売れるほど怖くなって、事業を人に譲りました。在庫が一千万円ぶんまで膨らみ、カード決済の入金は売上が立ってから遅れて入る。売れているのに、手元のお金は先に出ていく。動かす額が大きくなるほど、後戻りできない感じがしてくる。その不安に押しつぶされそうになったんです。
二回目は二十九歳のとき。ホームページ制作の仕事を家で始めましたが、コネもツテもなく、案内を送っても一件も連絡が来ませんでした。三か月で辞め、「二度と独立なんてしない」と心に決めました。
あとから振り返って気づいたことがあります。この二回は、どちらもしんどくなったときに引き返せる形だったということです。
引き返せる形だったから、引き返した。それが悪かったとは今も思っていません。ですが、同じ形でもう一度始めれば、また同じところで引き返すだろうな、とは思いました。
三回目に変えたのは、意志ではなく形
三十二歳のとき、僕はもう一度独立しました。二度としないと誓ったはずなのに、です。
このとき、前の二回と変えたことが一つだけあります。会社にしたことです。個人ではなく、法人として始めました。
理由は単純で、二度と逃げられない状況に自分を置こうと思ったからです。会社にすると、簡単にはやめられません。自分で自分の逃げ道をふさぎにいった、というのが正直なところです。
ここで大事なのは、僕が三回目に「強い覚悟」を手に入れたわけではない、ということです。覚悟の量は、たぶん一回目とそれほど変わりません。変えたのは、覚悟ではなく形のほうでした。
これは、組織の話にそのまま置き換えられると思っています。
続かないのは、たいてい意志ではなく形の問題
会社で何かが続かないとき、原因が個人の意識に求められることがあります。危機感が足りない、当事者意識がない、と。
ですが、多くの場合、続かない仕組みはやらなくても誰も困らない形になっています。日報も、勉強会も、改善提案も、飛ばしたその日は何も起きない。何も起きないので、飛ばしたことにすら気づかない。忙しい時期に一度飛ぶと、そのまま消えます。
逆に、続いているものを見てみると、たいてい誰かとの約束になっています。お客様との納期、外部の締切、人が待っている場。意志が強いから続いているのではなく、飛ばせない形になっているだけです。
ですから、続けたいことがあるなら、まず「これは飛ばせるか」を見たほうがいい。飛ばせる形のまま「今度こそ続けよう」と決意しても、たぶん前と同じ結果になります。決意は、決めた直後がいちばん強くて、そこから減っていくものなので。
もう一つ。人は、人の姿を見て動く
ここまでが形の話ですが、僕がもう一度独立した理由そのものは、実は形の話ではありません。
二度と独立しないと決めたあと、僕はまた就職しました。美容関係の会社です。そこで、独立していく美容師さんたちを見ることになりました。今まで一緒に働いていた人が、看板を掲げて、自分の名前で店を始めていく。その姿を、そばで何度も見ました。
それを見て、僕は羨ましかったんです。
自分でも意外でした。もう自分には関係のない世界だと思っていたはずなのに、人が夢を叶えようとしている姿を見ると、いいなあ、と思ってしまう。その気持ちが消えなかった。
決意は頭で作るものです。うまくいかなかった理由を並べて、こういう結論にしよう、と自分で決める。だからあとから変えられる。ですが、羨ましいというのは、決めた覚えがないのに勝手に出てくる。考えて出したものではないんです。
「羨ましい」が起きる場所を、組織の中につくれるか
これは、人が育つ組織を考えるうえで、けっこう大きい話だと思っています。
研修も、目標設定も、評価も、基本的には頭に働きかけるものです。必要なものですが、それだけだと「やるべきこと」の話で終わります。人が本当に動くきっかけは、もう少し手前にあることが多い。近くの誰かが、自分にもできそうなことをやってみせた瞬間です。
すごい人の話を聞いても、憧れにはなりますが、羨ましいとまでは思いません。羨ましいは、距離が近いときに起きる感情です。同僚が新しい役割に挑戦した。年次の近い人が任された。そういうときにだけ、あの少し落ち着かない気持ちが出てくる。
ですから、育成の設計として考えるべきは、「学ばせる場」だけではなく、近くの誰かの挑戦が見える状態になっているかのほうかもしれません。誰が何に挑戦していて、どうなったのか。それが社内で見えていないと、羨ましさは発生しません。挑戦がひっそり行われ、結果だけが共有される組織では、人は動く理由を受け取れない。
意志を責める前に、形と景色を見る
まとめると、僕が三度の独立で学んだのは二つです。
一つは、続くかどうかは覚悟の量ではなく形で決まる、ということ。飛ばせる形のものは、いずれ飛びます。
もう一つは、人を動かすのは正論より、近くの誰かの姿だ、ということ。僕自身、二度と独立しないという理屈の結論を、美容師さんの看板ひとつに崩されています。
もし社内で「続かない」「動かない」と感じていることがあるなら、意志の話にする前に、この二つを見てみてください。飛ばせない形になっているか。そして、近くの誰かの挑戦が、ちゃんと見えているか。