朝礼で「今期は売上◯億円」と言っても、社員の手は動かない
朝礼で「今期の目標は売上◯億円です」と言われて、その場の全員が自分ごととして受け取れる会社は、そう多くありません。目標が悪いのではなく、語り方の問題だと思っています。今日は、目標を「数字」ではなく「景色」で持つと、組織の中で何が変わるか、という話を書いてみます。
数字は物差しであって、目的地ではない
会社の目標をうかがうと、たいてい最初に数字が出てきます。売上を倍に。規模を三倍に。問い合わせを月に何件に。それ自体はとても良いことで、数字がなければ、進んでいるのか止まっているのかも分かりません。
ただ、そこでもう一つ質問をすると、話が変わります。「その数字が達成できたら、何が変わるんですか」。
少し間があいて、そのあとに出てくるのが本題です。人をもう一人入れたい。自分が現場から抜けたい。休みが取れるようにしたい。無理な条件の仕事を断れるようになりたい。スタッフにちゃんと賞与を出したい。この地域で「あそこにお願いしたい」と言われる会社になりたい。
こちらが、本当の目標です。数字のほうは、それが叶ったかどうかを測るための物差しでしかありません。物差しは、距離は教えてくれますが、方向は教えてくれない。それなのに、経営計画書に書かれているのは、たいてい物差しのほうだけです。
物差しだけを共有すると、組織はどうなるか
数字だけを掲げると、二つのことが起きます。
一つは、日々が「まだ足りていないことの確認」になること。今月はあと何件足りない、去年より何パーセント低い。全員ががんばっているのに、目に入るのは足りていない数字ばかりです。これは、意志の強さでは支えきれません。
もう一つは、判断の基準が一つしかなくなること。会社では毎日、細かい選択が積み上がります。この仕事を受けるか。誰に任せるか。この設備を入れるか。数字の目標しか持っていないと、基準は「売上が増えるかどうか」だけになり、増えるほうを選び続けることになります。
その結果、数字は達成したのに、社長は前より忙しく、休みも取れず、断りたい仕事も受けたまま、ということが起きる。誰も間違った判断をしていないのに、着いた場所が想像と違う。これは、目標の置き方が原因だと思っています。
「達成した日のふつうの一日」を決めておく
ですから、数字とセットでもう一つ決めておくことをおすすめしています。その目標が叶っている日の、ふつうの一日です。
朝、何時に会社に着いていて、どういう仕事が入っていて、誰がその仕事を担当していて、自分は何をしていて、どんな相談の電話がかかってきて、夕方、何時に帰れるのか。そこまで言葉にしておく。
これがあると、判断の基準がもう一つ増えます。「この選択は、あの日の一日に近づくか、遠ざかるか」。同じ売上でも、近づくものと遠ざかるものがある。それが見えるようになります。
組織にとっての本命は、三つめの効き目
景色を決めておく効き目は三つあります。判断がぶれなくなること。途中でも状態の一部が先に手に入ること。そして三つめが、人に伝わることです。組織にとっては、これが本命だと思っています。
「売上をいくらにする」は、スタッフの生活とどうつながるのかが見えません。だから、どうしても少し他人事になります。これは意識が低いのではなく、接続点が示されていないだけです。
一方、「三年後、こういう働き方になっている」「こういう相談が来る会社になっている」という景色なら、共有できます。自分がその中でどう働いているかを、それぞれが想像できるからです。同じ目標でも、数字で語るのか、景色で語るのかで、伝わり方はまったく違います。
人が動かないとき、多くの場合、足りていないのは意欲ではなく共有できる像です。像がないところに、人は自分の居場所を想像できません。
景色を描くときに、つまずきやすい三つ
実際にやってみると、ここでつまずきます。よくあるのは三つです。
特別な日を想像してしまう。大きな受注が決まった日、表彰された日。気持ちは分かりますが、効きません。年に一度しか来ないからです。決めるべきは、なんでもない平日のほう。「火曜日の午前中、自分は何をしているか」。その解像度がいちばん効きます。判断は、特別な日ではなく平日のほうで積み重なるからです。
時期が近すぎる。一年後だと、今の延長でしか描けません。今の忙しさが前提のまま、少し数字が良くなった一日が出てくるだけです。三年後にすると、人が増えている前提、やめている仕事がある前提で考えられるようになり、景色がはっきりします。
書こうとしても出てこない。ここでペンが止まる方は少なくありません。そういうときは逆から書きます。「三年後、こうはなっていたくない」という一日のほうを書く。これはたいていすらすら出てきます。今しんどいことが、そのまま出てくるからです。それを一つずつ裏返すと、なりたい景色が見えてきます。ゼロから理想を組み立てるより、はるかに早い方法です。
数字を捨てる話ではありません
念のため書き添えると、数字がいらないという話ではありません。景色だけがあって数字がないと、今どのあたりにいるのかが分からなくなります。「近づいている気がする」という感覚だけで走ることになり、これはこれで危険です。
数字は物差しとして必要です。ただ、物差しを目的地だと思わないほうがいい。目的地は景色のほうで、数字はそこまでの距離を測るもの。両方を持っておくのが健全だと思います。
経営計画書に、一行だけ足す
次の会議までに、一つだけ試せることがあります。いま掲げている目標を一つ選び、その下に一行だけ書き足してみてください。
その目標が叶っている日、うちの会社の火曜日の午前中は、どうなっているか。
その一行を朝礼で読めるようになったとき、目標はようやく、全員のものになるのだと思います。