面談の中身より、終わり方のほうが残る
一時間かけて面談をしたのに、相手に何も残っていない。伝えたはずのことが、次の週には消えている。今日は、伝え方ではなく、記憶の残り方の話です。
真ん中が、きれいに抜ける
去年の旅行のことを思い出してみてください。着いた日と最終日のことは出てくると思います。では、二日目の午後は何をしていましたか。ここが、なかなか出てきません。
楽しくなかったわけではありません。ちゃんと過ごしているのに、記憶が残っていない。
心理学に、これを調べた実験があります。意味のつながらない単語をたくさん読み上げて、あとで思い出してもらう。すると、みんな、最初のほうと最後のほうを答えます。真ん中が、きれいに抜ける。
最初が残るのを初頭効果、最後が残るのを終末効果と呼びます。
最初は、まだ頭の中が空いているので、そのまま入る。最後は、まだ耳に残っている。真ん中は、前からも後ろからも押されて、埋もれてしまう。
体験の量と、残る印象は、比例していません。
一時間の面談より、帰り際の一言
ここから、組織の話につながります。
会議も、最初に誰が何を言ったかと、終わり際の空気は覚えています。真ん中で出た細かいやりとりは、ほとんど残りません。
一対一の面談も同じです。一時間かけて、いろいろな話をする。ですが相手に残るのは、部屋に入ってきたときの最初の三分と、帰り際の一言です。
ですから僕は、帰り際に何を言うかを、けっこう気にしています。
その日いちばん盛り上がった話をもう一度持ち出すのか。次にこちらが何をするかを一つだけ言うのか。それとも、その人が話していた個人的なことに触れるのか。
一時間で出た結論より、最後の一言のほうが残ります。せっかく時間を使うのに、そこを空けたまま終わるのはもったいない。
これは、はじめて会う人のときにいちばん効きます。名刺を渡したあとに、何を一つ足すか。会社名と名前だけで終わるのか、何をやっている人なのかを一言添えるのか。そのあとの一時間の話より、その一言のほうが残ります。決めてある人は、意外と少ないところです。
順番を変えるだけで、受け取られ方が変わる
もうひとつ、これは今日からできることです。
内容を変えなくても、順番を変えるだけで、残るものが変わります。
たとえば報告のときに、悪い話と良い話が両方あるとします。
悪い話を最後に置くと、その打ち合わせは「悪い話だった」として記憶されます。良い話をしたことは、たぶん残りません。
先に悪い話を出して、そのあとで、どう進めるかを話して終わる。同じ中身なのに、受け取られ方が変わります。
これは、ごまかしているわけではありません。言うことは全部言っています。どちらを覚えて帰ってもらうかを、こちらで決めているだけです。
評価の面談で、これはとくに大きいと思っています。改善してほしい点を最後に置くと、その人にとってその面談は「怒られた時間」になります。期待している、という前半の話は消えます。
先に課題を出して、そのあとで、次にどこを任せたいかを話して終わる。伝える内容は一つも減らしていないのに、翌日から動ける状態が変わります。
入社日と、最初の一週間
この構造は、人が組織に入ってくるときにも同じように出ます。
入った人が覚えているのは、初日と、辞めるかどうかを考えた時期の終わりです。真ん中の日々は、驚くほど残りません。
初日に誰が迎えて、何を渡したか。最初の一週間で、何を任されたか。ここは一度きりで、あとから作り直せません。
そして、一日の終わり方も同じです。その日うまくいかないことがあった人でも、帰り際に一言あるかどうかで、その日の記憶は変わります。
これは気配りの話というより、どこに手を入れると効くかという配分の話だと思っています。中身を増やさなくても、置き場所を変えれば残るので。
真ん中は、深く関わる人のための場所
ここまで書くと、真ん中はどうでもいいのか、と思われそうなので書いておきます。
真ん中は、深く関わる人のための場所です。
ここは、届く人数だけで考えると見誤ります。
たとえば、社内のルールや理念を書いた資料。全部を読む人は多くありません。ですが、読む人はいます。そして、そういう人は、たいてい本気でこの組織でやっていこうとしている人です。人数は少ないけれど、残る確率が高い人が読んでいる。
だから、真ん中には細かいことを書いておきます。評価の基準、任せる範囲、やらないと決めていること。ここを読んで納得した人が、実際に残ります。
最初と最後は、多くの人に届くところ。真ん中は、深く関わる人にしっかり届くところ。役割が違うだけです。
まとめ
人は、最初と最後しか覚えていません。真ん中は、時間をかけても残らない。
ですから、最初と最後に何を置くかを、先に決めておきます。面談なら帰り際の一言。入社なら初日と最初の一週間。報告なら、悪い話をどこに置くか。
そして真ん中には、深く関わる人のために、細かく正直に書いておく。
次の面談で、最後に何を言って終わるか。そこだけ決めてから部屋に入ってみると、残るものが変わると思います。