会議でいちばん大事な意見は、たいてい言いにくくて消えていく

組織づくり

組織の中で、いちばん価値のある発言は、たいてい言いにくい発言です。そして言いにくい発言は、放っておくと組織から消えます。今日は、僕が言われた側だったときの話から、その一言が残る組織と、消える組織について書いてみます。

「経営者、辞めた方がいいんじゃないですか?」

会社を作って三年目のころ、僕は毎日「会社を辞めたい」と思っていました。

人を大切にする会社にしよう、と決めて始めたのに、単価が安く、経費とスタッフの給料を払うと残りはゼロ。自分の給料が出ない月もある。無理な残業はさせたくないので、あふれた仕事は夜に自分で片づける。言っていることと、やっていることが合っていませんでした。

そこに、僕より年上のデザイナーが入社してきます。一人でめちゃくちゃ稼げる人で、当時の僕から見たら雲の上のような存在でした。その人が、しばらく経ってからこう言いました。

「経営者、辞めた方がいいんじゃないですか?」

僕は、何も言い返せませんでした。腹は立ちましたが、口には出せなかった。というより、出す資格がなかったんです。

僕自身が、同じことを毎日思っていたからです。

いちばん響く言葉は、知らなかったことではない

ここに、フィードバックの本質があると思っています。

人から言われていちばん響く言葉は、知らなかったことではありません。うすうす自分でも分かっていたことを、外から言われたときです。

知らないことを言われても「へえ」で終わります。腹は立たない。勉強になりました、で済んでしまう。つまり、相手が快く受け取れる指摘は、たいてい相手を変えません。変わるきっかけになるのは、腹が立つほうです。

それ以来、僕は自分がかちんときたときに、その場では返さず、いったん持ち帰るようにしています。自分の中に同じ考えがなかったかを問い直す。あったら、それはたぶん当たっている。逆に、探しても何も出てこないなら、単に見ているものが違うだけなので、そこまで気にしなくていい。

見分けたいのは、その言葉が正しいかどうかではなく、自分がすでに知っていたかどうかです。知っていて、見ないふりをしていたことだけが、あとから残ります。

その一言は、たいてい組織に残らない

ただ、ここからが組織の話です。

耳の痛いことを言ってくれる人は、そんなに多くありません。普通は言わないからです。言えば関係が気まずくなる。評価にも響くかもしれない。だから多くの人は、黙っているほうを選びます。それは怠慢ではなく、合理的な判断です。

つまり、放っておけば組織に残るのは言っても角が立たない意見だけになります。会議が穏やかに終わるようになり、決定は早くなり、そして誰も本当のことを言わなくなる。

この状態はしばらく快適なので、問題として認識されにくいのが厄介なところです。困りごとが起きたときに初めて、「実は前から思っていました」という声が一斉に出てくる。あの一言は、無かったのではなく、言われないまま各自の中に溜まっていただけです。

ですから、組織を見るときに問うべきなのは「風通しがいいか」という感覚ではなく、もう少し具体的なことだと思っています。この半年で、経営者にとって耳の痛い発言が、誰から、何回あったか。思い出せないなら、それは無かったのではなく、消えている可能性が高い。

言った人が損をしていないか

では、どうすればその一言が残るのか。

制度の前に見るべきは、過去に言ってくれた人がその後どうなったか、だと思います。指摘した人が浮いていないか。会議で反論した人が、次の会議で発言しなくなっていないか。人は、周りの誰かが損をした場面を一度見ると、それ以降は黙ります。宣言や標語ではなく、実例のほうを見ています。

もう一つは、受け取る側の反応です。指摘されたその場で説明を始めると、それは反論として伝わります。悪気がなくても、相手には「言っても仕方がない人だ」と記録されます。持ち帰る、というのは自分のためだけでなく、次にもう一度言ってもらうための作法でもあります。

ちなみに、僕にあの一言をくれたデザイナーは、半年も経たないうちに辞めていきました。今でも感謝していますが、同時にこうも思います。あの人が言えたのは、たぶん辞められる人だったからです。残る前提の人が同じことを言うには、もっと安全が要る。その安全をつくるのが組織側の仕事です。

エネルギーは本物でも、向け先は自分で決める

最後に、その後の話も書いておきます。

あの一言で、僕はかなり火がつきました。もともと会社を大きくしたい気持ちはなかったのですが、負けず嫌いなので、見返してやろうと思ってしまった。そこからどんどん人を増やして売上を伸ばし、四年目になる前にスタッフは十人を超えました。

でも五年目に、スタッフが次々と辞めていきます。原因ははっきりしていて、無理に会社を成長させたツケでした。仕事が増えて、みんな残業しないと回らない。僕も忙しくてサポートできず、話す時間も取れない。それでみんな疲れてしまった。

悔しさで生まれたエネルギー自体は本物でした。間違えたのは、向け先のほうです。見返すために数字へ走ってしまった。人を大切にする会社にしたい、というほうへ向けていれば、結果は違ったと思います。

これは組織の成長そのものにも言えることだと思っています。伸ばす力があること自体は良いことです。ですが、その力を何のために使うかを決めていないと、いちばん測りやすいもの、つまり数字のほうへ自動的に流れます。そして数字が伸びている間は、人が疲れていることが見えません。

悔しさも、危機感も、燃料としてはかなり強い。ただし燃料は、どちらへ走るかまでは決めてくれません。どこへ向かうかは、頭が冷えているときに決めておく必要があります。

耳の痛い一言が残る組織をつくること。そして、その一言で生まれたエネルギーの行き先を、熱くなる前に決めておくこと。この二つは、たぶんセットです。片方だけだと、僕の五年目と同じことが起きます。

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